2人で最後に見た部屋の風景(提供:東えりかさん)
私と保雄に起こった出来事が、私たちだけのことだとは到底思えない。同じように苦しみ、悩み、嘆き悲しんでいる人たちはいまも、これからもいるだろう。その人たちの役に立つように私たち夫婦の経験を何らかの形でとにかく残したい。
人はつらい経験や悲しかった出来事は、忘れるようにできているという。しかし私は忘れることを恐れた。「冷静に話を聞くにはまだ早いのではないか」という周りの忠告はいったん置いて、関わりのあった人たちにインタビューを敢行した。それがイコール、私や保雄と同じような思いをした人、これから経験する人にとって有益な情報になると信じたからだ。
日本における原発不明がん治療の最前線に携わる医療関係者たちともコンタクトを取った。原発不明がんだけでなく、原因が特定されないがん、治すことができないがんがたくさん存在することを学んだ。
そのなかで、「希少がん・難治がん」への取り組みや、最後の砦になりうる相談窓口、“希少がん”ホットラインが存在し、広がりつつあることを知った。日本で数人しか罹患していないがんであっても、がん専門の医療チームが治療を担当し、その患者たちも仲間を募って情報を共有していた。がん治療は秒速で進歩していたのだ。
※東えりか著『見えない死神 原発不明がん、百六十日の記録』(集英社刊)の〈はじめに〉より抜粋・再構成
【プロフィール】
東えりか(あづま・えりか)/1958年千葉県生まれ。書評家。信州大学農学部卒。動物用医療器具関連会社にて勤務の後、1985年より小説家・北方謙三氏の秘書を務める。2008年に書評家として独立。2011年から2024年までノンフィクション書評サイト「HONZ」副代表を務める。日本推理作家協会会員。「週刊新潮」「小説新潮」「婦人公論」「本の雑誌」「公明新聞」「日本経済新聞」で書評を担当。文庫解説担当著書多数。
『見えない死神』の刊行を記念して、12月20日(土)に大阪の隆祥館書店でトークイベントが開催される。ゲストは大阪大学名誉教授の仲野徹さん。
詳細→https://note.com/ryushokanbook/n/n0a73f3df4476
『見えない死神』の刊行を記念し、12月20日(土)にはトークイベントが開催される

