竹田津実氏
「北海道の自慢は、人間がコントロールできない自然があること」
──クマの権利という言い方もクマ視点といいますか、竹田津さんならではの見方ですよね。
竹田津:そんなものはないって言う人もいるでしょうけど、そう言ってしまったら、人間っちゅうのは何者かっちゅうことになりますよ。人間は何をしてもいいのか、と。誰かがそれは違うだろうって言わないと、世の中はおかしなことになる。人間はさ、「そこのけそこのけ、人間様が通る」って言い過ぎた。正義はこっちにあるんだと言わんばかりに。正義を言い出すと絶対、暴力につながるんですよ。自衛隊なんかもね、僕は出してほしくなかったな。自衛隊の役割は、本来、そういうもんではないと思うけどな。
──人間のちっぽけさであったり弱さを痛感する自然災害という意味では、地震や台風とクマは同じ種類のような気がします。人間の脆さを突き付けてくる。そういうものの存在がなくなってしまうのは確かに怖い気がします。
竹田津:クマがおるということは、それだけ自然が豊かだっていうことでもあるんです。そやから、むしろ自慢すべき話なんですよ。僕はいつも言ってるんですよ。北海道の自慢は、人間がコントロールできない自然があることなんだ、って。そういう考え方も少しずつ育てていかないと、前に進めないと思うんです。今、世の中は駆除一辺倒になっていますけど、人もお金もない中、そんなに簡単に減るもんじゃない。駆除しながら、どうしたらクマと共生できるのか、もう一度、考えていかないと。
自然ってのは本来、ある程度、緊張感のあるものなんです。ダラーッとなんてしていられない。人間社会も自然の一部なんだから、ヒグマに襲われて死ぬってことも、そりゃあるだろうなと思ってないと。スズメバチに刺されて死ぬ人も、マムシに噛まれて死ぬ人もいるようにね。
──地震などの自然災害はどうしようもないと思えますけど、同じ自然でも相手が生き物となると、殺せば何とかなると思ってしまうところがあるんでしょうね。
竹田津:私は北海道の守り神は、ヒグマとヤブ蚊だと思っているんです。特に知床はそうですよね。ヒグマとヤブ蚊がいるから人がなかなか近づけなかった。だから、あれだけの自然が守られてきた。昔、知床の遠音別岳(おんねべつだけ)に登ったんですけど、あそこのヤブ蚊は強烈でしたよ。普通の蚊より大きいんです。ある本に遠音別岳の鳥は飛べなくなるって書いてあった。要するに、蚊に血を吸われてやられてしまうんだ、と。そんなことねえだろって思っていましたけど、実際に行ってみたら、ここならありえるなと思いましたね。もう、刺されまくりましたから。
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後編記事では、クマ被害に関するメディア報道への違和感や、「老人」がクマの攻撃対象になっていることの理由について、竹田津氏が語っている。
(後編へ続く)
■取材・文/中村計(ノンフィクションライター)
