『ハチミツにはつこい』など名作恋愛マンガを数多く生み出した漫画家の水瀬藍氏、和風ファンタジーの傑作『あやかし緋扇』などの代表作をもつ漫画家のくまがい杏子氏という、少女漫画の最前線で活躍を続けるふたりの漫画家画業20周年を記念した初の合同原画展「みなくま展」が、1月9日(金)〜2月1日(日)まで東京・有楽町マルイ8F イベントスペースにて開催中だ。
水瀬藍氏&くまがい杏子氏の画業20周年を記念する企画展が開催中!
本展では、『なみだうさぎ~制服の片想い~』『青春ヘビーローテーション』(ともに作・水瀬藍氏)『チョコレート・ヴァンパイア』『東京§神狼』(ともに作・くまがい杏子氏)など、これまで両氏が手がけてきた作品の貴重な原画が多数展示されている。また、作品の世界観を表現したフォトスポットや、仕事部屋のデスク再現コーナーも。見どころを詳しくレポートしよう。さらに、記事の後半では、水瀬氏、くまがい氏の特別対談も公開する。
圧巻のトーンワークに時間を忘れてうっとり
会場に入ってまず目に飛び込んでくるのは、両氏のデビューからこれまでの活動をまとめた年表と、歴代の『Sho-Comi』の付録たち。ノートやクリアファイル、シャープペンシルなど美麗なイラストが印刷された定番アイテムから、パスケースやブーブークッション(!)など一風変わったものまで盛りだくさんだ。
付録展示コーナーを抜けると、本展のメインである原画の展示がスタート。ここでは水瀬氏、くまがい氏が自ら選んだ美麗な原画の数々が、作品ごとに展示されている。飾られている原画の総数はなんと100点以上!
まずは水瀬氏が2009年〜2012年の間連載していた『なみだうさぎ〜制服の片想い〜』の原画がお出迎え。水瀬氏の原画は、とにかくトーンワークが圧巻。複数のトーンを重ねて貼ったり削ったりして繊細でロマンティックな世界観が表現されている。
また、カラー原画もレース模様やキャラクターのネイルの柄など、細部まで水瀬氏のセンスとこだわりが光る。至近距離でじっくり見ることができるのも、原画展だからこそ。
『ハチミツにはつこい』の原画
アナログ作画とデジタル作画を見比べて楽しめる
続いて、くまがい氏のコーナー。くまがい氏は2016年〜2021年連載の『チョコレート・ヴァンパイア』から徐々にデジタル作画に移行していったそうで、作品を追うごとに、オールアナログ作画のもの、線画のみアナログで枠線とトーンはデジタルのもの、さらに下絵のみアナログで線画以降はすべてデジタルのもの…と、作画方法の移り変わりを見られるのが楽しい。
『チョコレート・ヴァンパイア』の原画
また、普段から親交が深い両氏ならでは企画として、水瀬氏が選んだくまがい作品のお気に入りシーンと、くまがい氏が選んだ水瀬作品のお気に入りシーンも展示。どのシーンが選ばれているかは、会場で自分の目で確かめてほしい。
直筆サインやイラスト、仕事場デスク再現など、隅々まで見逃せない!
会場には原画だけではなく、『青春ヘビーローテーション』と『チョコレート・ヴァンパイア』の世界観を再現したフォトスポットも展示。ハート型の風船や花で美しく彩られた空間は、SNS映えも抜群。さらに、会場内の壁面をよく見てみると、あちこちに水瀬氏とくまがい氏が描いた直筆のイラストやサインも。
続けて、両氏の仕事部屋のデスクを完全再現したコーナーも。実際に使用している画材や資料、こだわりのアイテムなどが持ち込まれ、再現されている。よく見てみると、ぬいぐるみや作業のお供に食べているお菓子など、親しみを感じるアイテムも。このデスクで数々の名作が描かれてきたのか…と胸が高鳴る。
両氏のデスクを再現
また、会場内では本展オリジナルグッズほか、両氏の小学館公式のグッズも多数販売。20周年記念のアイテムから、普段使いできるグッズまで盛りだくさんだ。代表作の絵を使用したアクリルスタンドなど、貴重なグッズもラインナップされている。
グッズも多数展開
水瀬氏・くまがい氏 特別対談
ここからは、会場を訪れた両氏に、展示の見どころからお互いのこれまでの創作人生への思いまで、じっくりお話を伺った。
──今回の原画展を開催することになった経緯を教えてください。
水瀬藍(以下、水瀬):最初は自分たちだけで「20周年を記念して、こぢんまりした原画展をやりたいね」って話をしていたんです。
くまがい杏子(以下、くまがい):小さなスペースをお借りして、原画を数点飾って、グッズも手売りして…という、コミケのような感じをイメージしていました。
水瀬:一応、編集部にも伝えておいたほうがいいよね、と思って話をしたら、編集さんに「原画を飾るには、保険とかかけないといけないんですよ」と言われて。え〜! そうなんだ!?と(笑)。
くまがい:全然知らなかったですよね(笑)。
水瀬:うん。それで「一度持ち帰らせてください」と言われて、結果的にこんな大きな規模になりました(笑)。
くまがい:会場は想像していたよりずっと華やかで、とにかく「すご〜い!」と興奮しっぱなしです。
水瀬:事前に会場の図面などは見せていただいていたんですが、やっぱり実際に見てみるとすごく華やかで、感動しました。
──今回、合計100点以上の原画が展示されているそうですが、特に注目してほしい原画をそれぞれ教えてください。
水瀬:2011年から2013年まで連載していた『恋降るカラフル』の花火のシーンです。アシスタントさんがトーンを貼ってくれたんですが、「どうすれば花火に見えるだろうか?」と2人で話し合い、すごく時間をかけてたどり着いた表現だったので、見てほしいです。トーンというのは、実際のものと印刷されたもので見え方が変わるので、毎回、印刷されたらどうなるかまで計算しながら貼っています。
くまがい:私は技術的なことをあまり考えてないから、本当にすごい。
水瀬氏『恋降るカラフル』の花火のシーン
──くまがい先生のイチ押しの作品はいかがですか?
くまがい:『あやかし緋扇』の大きなカラーイラストが思い出深いですね。私は、モノクロ原稿はデジタルですが、アナログのカラー原稿はコピックで塗っていて。コピックって筆先が細いんですよ。それで全部塗らなきゃいけなかったのが大変で。我ながら頑張ったなぁと思います。
水瀬:あと、和服の柄も毎回すごいよね。
くまがい:着物を描くのはやっぱり大変。毎回、嫌だ〜!と思いつつ描いていました。
──くまがい先生のコーナーは、最初は全部アナログで、途中から一部デジタルになり、最後はフルデジタルに…と作画の歴史が感じられました。デジタルに移行されたきっかけはあるんですか?
くまがい:デジタルが面白そうという興味もあったんですが、直接のきっかけとしては原稿を落としそうだったことですね(笑)。『チョコレート・ヴァンパイア』の1話が本当にギリギリのスケジュールで、このままアナログで描いていたらいつか落とすなと思い…。
水瀬:それでデジタルでやろう!と思い切れるのがすごいよね。時間がないときに新しいことを始められるのは。私だったら余計に時間がかかっちゃいそう。
くまがい氏『あやかし緋扇』のカラーイラスト
──お互いの原画を見た感想も教えてください。
くまがい:水瀬先生の絵はやっぱり細かくてすごいです。花火の絵もそうだし、ウエディングドレスのレースとか。私は絶対に描けない!と思ってしまいます。
水瀬:アシスタントさんが頑張ってくれてるんだよ(笑)。くまきょー(くまがい氏の愛称)の原画は、修正の跡が全然ないのがすごいと思いました。迷い線もほとんどなくて、無駄がない。私はいつも線を重ねちゃうから、すごいなぁって。
くまがい:誤魔化してる?全然そういうふうには見えない。
水瀬:あとはアップの絵の表情がどれも決まってる。あんなに大きい男子の顔のアップって、よく考えたら私は描いたことないかもしれないと思って、勉強になりました。
──現在も連載をもち、最前線で活躍しているふたりが現在、漫画を描くときに最も意識していることを教えてください。
水瀬:作画に関してだと、読み手にちゃんと伝わるような絵を描くことですかね。セリフを読まなくても何のシーンなのかわかるような絵を描くことは、ずっとこだわってやっています。
くまがい:私は、飽きられないようにするというか、古く見えないようには意識しています。流行っている洋服とかを調べて、「今年は世の中的にくすんだ色が流行っているな」と思ったら、カラーイラストに取り入れてみたり。
──では、ストーリーを考えるときに意識していることは?
水瀬:まず、読んでくれる人たちを、どんな気持ちにさせたいかを考えます。仕事をして疲れて帰ってきたときに読んでほしいとか、そういう読者像をまず設定して、その人を胸キュンさせたいとか楽しませたいとか考えます。
くまがい:私は「絶対にキャラを幸せにしてやるぞ」と思いながら描いています。いろんな困難が待ち受けるけど、それを乗り越えた先には必ず頑張ってよかったと思える幸せがある。現実ではなかなか得られないカタルシスに、漫画の中だけでも浸ってもらえたらなと思っています。
──では、お互いに対する思いを聞かせてください。
水瀬:くまがい先生は本当にプロフェッショナル。いつも余計なことは考えず、ひたすら漫画のことだけを考えて集中していてかっこいい。
くまがい:私もまったく同じことを水瀬先生に対して思ってます(笑)。真摯に漫画と向き合っていて、本当に尊敬してます。
水瀬:毎回、新作を出すたびに私が絶対に思い付かないようなストーリーや世界観を出してくるところもすごいです。どれだけ引き出しがあるんだろう?と思います。
くまがい:たぶん、お互いの作風を交換してみてって言われてもできないです。私には水瀬先生のような胸キュンを集めたストーリーは描けないから。
──得意分野が違うんですね。
水瀬:そうですね、真逆だと思います。だからこそ仲良いのかも!
くまがい:そうですね(笑)
両氏の20年間の歩みと、生み出してきた作品への愛、そしてお互いへのリスペクトが感じられる「みなくま展」。ぜひ足を運んで、美しい原画の数々を堪能してほしい。
■開催概要
会場:有楽町マルイ8F イベントスペース
期間:2026年1月9日(金)~2026年2月1日(日)
時間:11:00~20:00
※最終入場は閉場の30分前まで
※最終日2月1日は17:00閉場
■イベント特設サイト
https://20th-minakuma.com/
■公式X
@20th_minakuma
文/井上明日香
(c)水瀬藍/小学館 (c)くまがい杏子/小学館






