月曜夜に放送されているフジテレビ系『ヤンドク!』(インスタグラムより)
多様な作品が放送されている今期ドラマ。その中で『ヤンドク』『夫に間違いありません』『パンチドランク・ウーマン』というジャンルの異なる3ドラマに意外な共通点があるという。それは“実話ベースのオリジナル”という点だ。その背景を探ると、テレビ局の意外な事情が見えてきた。コラムニストでテレビ解説者の木村隆志さんが解説する。
* * *
『リブート』(TBS系)や『再会~Silent Truth~』(テレビ朝日系)などのサスペンス、『おコメの女―国税局資料調査課・雑国室―』(テレビ朝日系)や『プロフェッショナル 保険調査員・天音蓮』(フジテレビ系)などの職業ドラマ、さらに、異色の会話劇が繰り広げられる『冬のなんかさ、春のなんかね』(日本テレビ系)、K-POPの世界を描いた『DREAM STAGE』(TBS系)などの多彩な作品がそろった2026年の冬ドラマ。オリジナル作品が多く在宅率の高い冬だけに力作がラインナップされた感があります。
その中で気になるのが、フジテレビ系で月曜夜に放送されている『ヤンドク!』(21時~)と『夫に間違いありません』(カンテレ制作、22時~)の2作。どちらも“実話をベースにしたオリジナル”という珍しい共通点があるのです。
『ヤンドク!』は「元ヤンキーから脳神経外科医になった女性」がモデルの作品。具体的な人物名は伏せられていますが、主人公・田上湖音波(橋本環奈)とモデルとみられる女性医師の人生が重なるところが多く、ネット上で話題になっています。
『夫に間違いありません』は「川で発見された遺体を家族に引き渡したが、後日その男性が帰宅したことで遺体を取り違えていたことが発覚した」という事件に着想を得た作品。
さらに日曜夜放送の『パンチドランク・ウーマン―脱獄まであと××日―』(日本テレビ系)も海外で起きた「女性刑務官と男性受刑者の脱獄」という実話に着想を得た物語であることが明かされています。
なぜ純粋なオリジナルでも、小説や漫画の実写化でもなく、“実話ベースのオリジナル”というプロデュースの作品が集まったのか。その背景を掘り下げていきます。
リアリティとエンタメ性を両取り
まず「小説や漫画の原作ありか、オリジナルか」で言えば、テレビ局としては後者のほうが望ましいのは間違いありません。原作者への確認や配慮、出版社への対応などが不要であり、脚本・演出・キャスティングも自由。さらに「放送収入の低下をIP(知的財産)でどれだけ補えるか」が求められる民放各局にとってオリジナルの重要性は飛躍的に高まっています。
実際、オリジナルは、続編、映画化、海外販売、スピンオフ、グッズ、イベント、企業タイアップなど、さまざまなビジネスが手がけやすく、純粋に収益を追い求めることが可能。プロデューサーがよほどほれ込み、高視聴率が期待できそうな小説や漫画でない限り、オリジナルを手がけることが現在のセオリーとなっています。
しかし、令和に入ってドラマ枠が増え、季節ごとに30~40作が放送される中、オリジナルの難易度がアップ。他のドラマ枠とかぶらない独自性と、関心を引きつけるドラマ性の両方を求められるため、各局のプロデューサーは常に頭を悩まされています。
そこでこのところ注目されているのが、実話ベースのオリジナル。現実にはフィクション以上にドラマティックな出来事が起き、それらが報じられるたびに「まるでドラマみたい」というコメントがネット上にあがっています。常に企画を探しているプロデューサーたちが「これをドラマにできないか」と考えるのは当然でしょう。
実話をベースにしているためリアリティが担保されますし、それを忠実に再現するのではなく「モデル」に留めることでエンタメ性を加えることが可能。リアリティとエンタメ性のバランスがいい作品を手がけることでヒットの可能性を高められます。
基本的に実話の関係者に許諾や理解を得ることが前提となりますが、再現ドラマでもノンフィクションでもないため、自由な脚本・演出が可能。地上波のドラマである以上、多くの人々に響く作品にすることが前提ですが、「どんな設定や展開を用意して誰がどのように演じるか」を追求することができます。
業界内で取材をしたところ、「日々、国内外のニュースに目を通して、実話ベースのオリジナル企画を探している」という複数のプロデューサーやディレクターがいました。今後もクールごとに今冬のような状況が見られるのかもしれません。
