ライフ

高齢者 養護施設で性行為の気持ちよさを初めて発見する人も

 若者の間で「草食化」の波が広がりつつあるのに対し、高齢者の間では、“性のアンチエイジング”が進んでいる。その背景には何があるのか?『熟年性革命報告』(文春新書)などの著書がある小林照幸氏が、最新事情をレポートする。

 * * *
 特別養護老人ホームに、80代前半で入居した男性と70代後半で入居した女性がいた。どちらも配偶者を失い、数年の独居生活を経ての入所。2人とも、普段は施設内で車椅子を使用していたが、互いに好意を持った途端、それまで投げやりだったリハビリに積極的に取り組むようになった。
 
 目的はひとつ。「車椅子から降りて、杖や手すりを使わず、2人で手をつないで施設の廊下を死ぬまでに歩きたい」というものだった。ささやかな願いが、2人の残りの人生における最大の夢となった。

 1年後、ゆったりした歩調ながら、2人は一緒に廊下を歩けるようになった。その後は、互いのベッドを行き交い、抱き合い、さらに、体の動く可能な範囲での性交渉を持つようにもなる。2人にとって特養での毎日は、人生最後の恋の日々となったのだ。
 
 こんな事例から、私は「いい年をして」という偏見を改め、「高齢者は老後の生き方の選択の一つとして、恋愛や性を“生きている証し”と捉え、愉しんでいる」のだと考えるようになった。
 
 中高年の恋愛と性をテーマにした著作があることで、私は高齢者の方々から、自らの充実した性生活や恋愛について手紙やメールを頂く機会も多い。「家族や友人、知人にはとても話せないが、理解のある第三者ならばぜひ聞いてもらいたい」というわけである。それらの中には、配偶者同士の変わらぬ恋愛もあるが、配偶者を亡くした者同士の恋愛、あるいは不倫も少なくない。

 中高年世代が恋愛や性を愉しむには、「健康である」「自由に使える金がそこそこある」「自由な時間がある」という3要素が不可欠だ。携帯電話、特に携帯メールという男女の恋愛における究極のツールの普及も大きい。

「彼女(彼)は、今の自分の生き甲斐です。生きてきて本当によかった」「家庭は壊したくない、家族も失いたくない。でも配偶者と添い遂げるのは……」と、真面目に語る人々に私は接してきた。
 
 実は「人生最後の恋」「結婚後の初恋」という情緒的な印象もある中高年の恋愛や不倫では、「セックスが、こんなに気持ちいいものだったとは」という“発見”をしているケースが圧倒的に多い。「セックスなんて所詮、こんなもの」と諦めていた人が、年相応のセックスを愉しめるようになることで、それまでの意識を一変させるのである。

 仕事や子育てから解放された安堵感は男女に共通するが、特に女性の場合は、妊娠を気にしない精神的な安心感も大きいようだ。
 
 現在の高齢者は、「生殖のための性から情緒安定のための性」のあり方に気づき、「老いらく」を「老い楽」にしている先駆者でもある、とも私は考えている。

※SAPIO2011年5月4日・11日号

関連キーワード

関連記事

トピックス

小島瑠璃子(時事通信フォト)
《亡き夫の“遺産”と向き合う》小島瑠璃子、サウナ事業を継ぎながら歩む「女性社長」「母」としての道…芸能界復帰にも“後ろ向きではない”との証言も
NEWSポストセブン
会見で出場辞退を発表した広陵高校・堀正和校長
《海外でも”いじめスキャンダル”と波紋》広陵高校「説明会で質問なし」に見え隠れする「進路問題」 ”監督の思し召し”が進学先まで左右する強豪校の実態「有力大学の推薦枠は完全な椅子取りゲーム」 
NEWSポストセブン
起訴に関する言及を拒否した大谷翔平(写真/アフロ)
大谷翔平、ハワイ高級リゾート開発を巡って訴えられる 通訳の次は代理人…サポートするはずの人物による“裏切りの連鎖” 
女性セブン
日本体操協会・新体操部門の強化本部長、村田由香里氏(時事通信フォト)
新体操フェアリージャパンのパワハラ問題 日本体操協会「第三者機関による評価報告」が“非公表”の不可解 スポーツ庁も「一般論として外部への公表をするよう示してきた」と指摘
NEWSポストセブン
スキンヘッドで裸芸を得意とした井手らっきょさん
《僕、今は1人です》熊本移住7年の井手らっきょ(65)、長年連れ添った年上妻との離婚を告白「このまま何かあったら…」就寝時に不安になることも
NEWSポストセブン
暴力問題で甲子園出場を辞退した広陵高校の中井哲之監督と会見を開いた堀正和校長
《広陵高校、暴力問題で甲子園出場辞退》高校野球でのトラブル報告は「年間1000件以上」でも高野連は“あくまで受け身” 処分に消極的な体質が招いた最悪の結果 
女性セブン
代理人・バレロ氏(右)には大谷翔平も信頼を寄せている(時事通信フォト)
大谷翔平が巻き込まれた「豪華ハワイ別荘」訴訟トラブル ビッグビジネスに走る代理人・バレロ氏の“魂胆”と大谷が“絶大なる信頼”を置く理由
週刊ポスト
お仏壇のはせがわ2代目しあわせ少女の
《おててのシワとシワを合わせて、な~む~》当時5歳の少女本人が明かしたCM出演オーディションを受けた意外な理由、思春期には「“仏壇”というあだ名で冷やかされ…」
NEWSポストセブン
広陵野球部・中井哲之監督
【広陵野球部・被害生徒の父親が告発】「その言葉に耐えられず自主退学を決めました」中井監督から投げかけられた“最もショックな言葉” 高校側は「事実であるとは把握しておりません」と回答
週刊ポスト
薬物で何度も刑務所の中に入った田代まさし氏(68)
《志村けんさんのアドバイスも…》覚醒剤で逮捕5回の田代まさし氏、師匠・志村さんの努力によぎった絶望と「薬に近づいた瞬間」
NEWSポストセブン
自宅で亡くなっているのが見つかった中山美穂さん
《ずっと若いママになりたかった》子ども好きだった中山美穂さん、元社長が明かした「反対押し切り意思貫いた結婚と愛息との別れ」
週刊ポスト
「週刊ポスト」本日発売! 「石破おろし」の裏金議員「入閣リスト」入手!ほか
「週刊ポスト」本日発売! 「石破おろし」の裏金議員「入閣リスト」入手!ほか
NEWSポストセブン