国内

核燃料最終処分場の誘致で雇用1年2800人で30億円の税収

たとえ原発を止めても、「核のゴミ」はなくならない。その「最終処分場」には、日本全国、どこの自治体も手をあげていないだが、当事者たちの知らないところで、候補地選びは進められていた。すでに北は北海道から南は鹿児島県まで88か所の候補地が存在している。その候補地選びの過程を追うと、そこには「原子力行政と自治体」の在り方の“歪み”が凝縮されていた。ジャーナリストの伊藤博敏氏が報告する。

 * * *
 88か所のリストは決して広く世に知られているものではない。どのような自治体の名が記されているのか。

 例えば、北海道は厚沢部町、今金町など11か所、新潟県は朝日村、入広瀬村など7か所、鹿児島県は阿久根市、出水市など10か所といった具合だ。
 
 原発同様、寒村僻地が中心で、東京、名古屋、大阪、福岡といった人口密集の太平洋ベルト地帯には「適正地区」はない。いや、調べてないと言うべきだろうか。
 
 NUMO(ニューモ、原子力発電環境整備機構)は各電力会社の寄り合い所帯。出向経験がある東京電力元幹部は、「原発立地も最終処分場も、説得の手法は同じ」とうそぶく。
 
「要は、カネです。財政難の自治体であるのが前提で、その上に誘致に積極的な政治家がいれば、話は進めやすい」
 
 原発が設置された自治体には、「電源三法交付金」が支給される。原発のある自治体への支給総額は、約1359億円にのぼる(資源エネルギー庁のモデルケース)。
 
 また、地元企業や一般家庭への電力料金の割引制度はあるし、さらに例えば福島県では原発への“迷惑料”として東電が建てた建設費130億円のサッカー施設「Jヴィレッジ」などもある。
 
 原発の誘致は、自治体を潤す。最終処分場もアピールするところは同じ。NUMOは、建設・操業期間(約60年間)の経済効果を次のように弾いている。
 
地元発注額が年間150億円で累計約8700億円。
生産誘発効果が年間360億円で累計約2兆円。
直接雇用が年間340人で延べ約1万9000人。
雇用誘発効果が年間2800人で延べ約16万人。

 さらに年間約30億円の固定資産税が期待できる。まさに、「札びらで横っ面をはたく」やり方である。

 これだけの手厚い“用意”をしても、応募してから反対派の総攻撃を受けた高知県東洋町の町長が、選挙で信を問うて大敗した例が示すように、根回し不足は確実に失敗する。

 前出の東電元幹部がこう語る。

「最初にやるのは、徹底的なリサーチです。そこが市なら、誰が本当の実力者かを調べ、有力な市議をまず味方にします。それから漁協を押さえる。漁業補償がつきものですからね。次に商工会議所の有力メンバーを囲い込み、最後に市長にアプローチする。その時、市長の親族企業が土建業者なら申し分ない。発注事業を優先的に回すことを匂わせるんです。県レベルでも、同じやり方でさかのぼり、最後に県知事に行き着く。徹底的なボトムアップ戦略です」

 酒食の接待から始まって、実利(仕事)に結びつける。営業の王道だが、電力会社の場合は懐が深い。有力者の子弟は、本人が望むなら電力会社本体かその周辺企業に就職させたり、親族が店を経営していれば、物品販売であれ飲食であれ「電力御用達」の店にしてしまうこともあるという。

 それだけでは終わらない。

 現実問題として、原発、中間貯蔵施設、再処理工場、高速増殖炉といった原発絡みの施設には、さまざまなトラブルが発生する。それが自治体の首長や地元選出の政治家を悩ませ、電力会社を揺るがすこともある。そんな時の“火消し”も用意している。

 東電協力企業の幹部はこう語る。

「原発予定地の一部を暴力団関連企業が買い占めたり、政治家と電力会社との“癒着”を事件屋が突いたり、といったトラブルは頻繁に起きます。暴力団、企業舎弟、総会屋、事件屋といった反社会的勢力との関係を、電力会社本体が持つわけにはいかない。それを収めるフィクサーがいて、その処理費用を捻出する“仕組み”もできあがっています」

 清濁併せ呑まなければ、原発も最終処分場も建設できない。

※SAPIO2011年8月3日号

関連キーワード

関連記事

トピックス

山下市郎容疑者(41)はなぜ凶行に走ったのか。その背景には男の”暴力性”や”執着心”があった
「あいつは俺の推し。あんな女、ほかにはいない」山下市郎容疑者の被害者への“ガチ恋”が強烈な殺意に変わった背景〈キレ癖、暴力性、執着心〉【浜松市ガールズバー刺殺】
NEWSポストセブン
英国の大学に通う中国人の留学生が性的暴行の罪で有罪に
「意識が朦朧とした女性が『STOP(やめて)』と抵抗して…」陪審員が涙した“英国史上最悪のレイプ犯の証拠動画”の存在《中国人留学生被告に終身刑言い渡し》
NEWSポストセブン
早朝のJR埼京線で事件は起きた(イメージ、時事通信フォト)
《「歌舞伎町弁護士」に切実訴え》早朝のJR埼京線で「痴漢なんてやっていません」一貫して否認する依頼者…警察官が冷たく言い放った一言
NEWSポストセブン
降谷健志の不倫離婚から1年半
《降谷健志の不倫離婚から1年半の現在》MEGUMIが「古谷姓」を名乗り続ける理由、「役者の仕事が無く悩んでいた時期に…」グラドルからブルーリボン女優への転身
NEWSポストセブン
橋本環奈と中川大志が結婚へ
《橋本環奈と中川大志が結婚へ》破局説流れるなかでのプロポーズに「涙のYES」 “3億円マンション”で育んだ居心地の良い暮らし
NEWSポストセブン
10年に及ぶ山口組分裂抗争は終結したが…(司忍組長。時事通信フォト)
【全国のヤクザが司忍組長に暑中見舞い】六代目山口組が進める「平和共存外交」の全貌 抗争終結宣言も駅には多数の警官が厳重警戒
NEWSポストセブン
遠野なぎこ(本人のインスタグラムより)
《前所属事務所代表も困惑》遠野なぎこの安否がわからない…「親族にも電話が繋がらない」「警察から連絡はない」遺体が発見された部屋は「近いうちに特殊清掃が入る予定」
NEWSポストセブン
放送作家でコラムニストの山田美保子さんが、さまざまな障壁を乗り越えてきた女性たちについて綴る
《佐々木希が渡部建の騒動への思いをストレートに吐露》安達祐実、梅宮アンナ、加藤綾菜…いろいろあっても流されず、自分で選択してきた女性たちの強さ
女性セブン
(イメージ、GFdays/イメージマート)
《「歌舞伎町弁護士」が見た恐怖事例》「1億5000万円を食い物に」地主の息子がガールズバーで盛られた「睡眠薬入りカクテル」
NEWSポストセブン
和久井学被告が抱えていた恐ろしいほどの“復讐心”
【新宿タワマン殺人】和久井被告(52)「バイアグラと催涙スプレーを用意していた…」キャバクラ店経営の被害女性をメッタ刺しにした“悪質な復讐心”【求刑懲役17年】
NEWSポストセブン
幼少の頃から、愛子さまにとって「世界平和」は身近で壮大な願い(2025年6月、沖縄県・那覇市。撮影/JMPA)
《愛子さまが11月にご訪問》ラオスでの日本人男性による児童買春について現地日本大使館が厳しく警告「日本警察は積極的な事件化に努めている」 
女性セブン
女優・遠野なぎこの自宅マンションから身元不明の遺体が見つかってから1週間が経った(右・ブログより)
《上の部屋からロープが垂れ下がり…》遠野なぎこ、マンション住民が証言「近日中に特殊清掃が入る」遺体発見現場のポストは“パンパン”のまま 1週間経つも身元が発表されない理由
NEWSポストセブン