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報道カメラマン リビアの民兵を「素敵な奴らじゃないか」

 首都・トリポリ陥落寸前のリビアを取材した報道カメラマン・横田徹氏は「映画と現実は、まるで違う。言うまでもなく、ハリウッドの派手なアクション活劇が現実に存在すると思う人はいないだろう。つい先日まで、僕自身もそう思っていた」と振り返った。横田氏がカダフィ体制崩壊に至る最前線にいた若い民兵に対する思いをここに綴る。

 * * *
 8月1日からラマダン(断食月)に入り、戦闘はさらに激しくなった。当初はてこずったものの、その後、何度か僕は最前線に入ることに成功した。
 
 ある日、全員が20代の民兵グループを取材した。彼らの中でただ一人、首に双眼鏡を掛けていたリーダー格らしき若者に「君がコマンダー(指揮官)なのか?」と尋ねると、一瞬驚き、それから露骨に誇らしげな表情になった。無線で指示を受け、戦闘に参加しているとはいえ、もともとは一般の若者なのだ。自分に冠する修飾語など考えたこともなかったのだろう。周りの仲間たちが、羨望の眼差しを向ける。

「おれが行くから、一緒に来い」

 そう言うと、彼は自動小銃を持って、悠々と歩き出した。障害物のない広い道路の真ん中をたった一人で、少し先にいるカダフィ軍に向かって歩いていく男。映画なら格好いいが、ここは本物の戦場だ。ノコノコ後ろをついて行ったら、一緒に死ぬハメになる。壁のある道の脇から撮影することにした。

 彼は立ち止まり、彼方のカダフィ軍に向かって自動小銃を構え、そしてシュワルツェネッガーのようにぶっ放した。はずだったが、自動小銃は一発の弾も発することなく、沈黙していた。JAM(弾詰まり)だ。その場でしゃがみ込み、弾倉をはめ直す。気を取り直して、もう一度、乱射。だが、うんともすんとも言わない。と、その時。

 ドーン! 近くに、カダフィ軍の砲弾が落ちた。道の真ん中の彼は慌てて、僕の傍に避難した。今度は弾倉から弾を取り出し、詰め直そうとするのだが、緊張からかポロポロと地面に落っことし、なかなか上手くいかない。「早く撃ってくれ!」。僕は心の中で叫んだが、それでも、彼を嗤うことは出来なかった。

 彼は今、精一杯の男気を見せているのだ。それは仲間に対してであり、日本人のカメラマンである僕に対してであり、おそらく家族に対しても。リビアの民兵たちは多くが、彼のような「ただの若者たち」だった。報酬さえ約束されていない。だが、彼らが戦ったからこそ反政府勢力は、大金を掴まされたカダフィの「戦争のプロたち」を打ち破ったのだ。

 素敵な奴らじゃないか。これが僕の見たリビアの戦場である。

※SAPIO2011年10月5日号

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