国内

民主党の「派遣切り」防止策が日本製造業競争力を奪ったの声

円高による日本企業の海外移転が止まらない。これまで日本の製造業が円高でも頑張ってこられた最大の理由は、国内に「労働の柔軟性」があったこと、すなわち正社員、契約社員、派遣社員、パートタイマーという重層構造になっていたことである。だが、それを奪ったのが民主党だと、大前研一氏は指摘する。以下は、大前氏の主張である。

* * *
経済産業省の予測によれば、日本は2010年代半ばに貿易収支が赤字構造に転落し、後半以降は経常収支も赤字が常態化する。その原因として同省は、日本が強い部品などの素材型産業も含めた製造業のサプライチェーン全体が海外移転する“根こそぎ空洞化”を指摘している。

日本の製造業は過去に幾度も円高危機を乗り越え、そのおかげで日本は何十年も貿易黒字を維持してきた。円高になるたびに日本企業は生産性を上げたり、さまざまなコストをカットしたり、まさに血のにじむような努力と創意工夫を重ねて対応してきたのである。

ところが、1ドル=90円を突破したあたりから、さすがに日本企業も疲れ果て、もう国内で生産するのはやめよう、という心理状態になってきている。

これまで日本の製造業が円高でも頑張ってこられた最大の理由は、国内に「労働の柔軟性」があったこと、すなわち正社員、契約社員、派遣社員、パートタイマーという重層構造になっていたことである。

大企業では福利厚生なども含めた製造現場の正社員の実質的なコストは時給換算で5000円以上になるが、パートの時給は地方なら700円ぐらいだから、人件費に7倍以上の違いがある。それをうまく組み合わせることによって人件費の平均を引き下げ、競争力維持のクッションにしてきたのである。

ところが民主党政権は、リーマン・ショックで顕在化した製造業での「派遣切り」などを防ぐという名目で、製造業への派遣を原則禁止する労働者派遣法改正案を2010年の通常国会に提出した。このため労働の柔軟性がなくなった日本の製造業は競争力を急激に失い、海外移転せざるを得なくなった。急速に進む円高や東日本大震災以降の計画停電なども、この動きを加速している。

現在の超円高は、そのうち反転するだろう。だが、たとえ1ドル=100円以上に戻ったとしても、いったん海外に出て行った日本企業が国内に戻ってくることはない。

では、日本企業に国内にとどまってもらうためには、どうすればよいのか?

最も効果的な方法は「労働力の自由化」だ。ミャンマーをはじめアジア各国から何十人でも何百人でも連れてきてかまわない、就労ビザを与えるから好きなようにどうぞ、というふうにすればよいのである。

そのうえで技術力のある中小企業に資金を融資し、設備の近代化を図っていくべきなのだ。他の先進国はみなそうやって国内にブルーカラーの安い労働力を確保し、競争力を維持してきた。

ところが民主党政権は、そういう対策は議論さえしていない。それどころか、自民党と公明党に譲歩し、継続審議になっていた労働者派遣法改正案について、当初主張していた「製造業派遣」と「登録型派遣」の原則禁止の規定を削除して、先の臨時国会での成立を図った。

しかし、これは「時すでに遅し」である。今さら製造業派遣禁止を撤回しても手遅れだ。国内に残っている企業の大半は、2年前に海外移転の強い決意と覚悟を固めて準備を終えている。再び派遣が可能になったからといって、移転をやめようと考える経営者はいないし、戻ってくる企業もないのである。

※週刊ポスト2011年12月23日号

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