国内

橋下氏のあいりん地区浄化作戦 第25次西成暴動に発展の懸念

大阪市の橋下徹市長は、大阪府外から、西成区にある日雇い労働者の街「あいりん地区」周辺に転入してくる子育て世代を対象に、市民税や固定資産税を一定期間免除するなどの優遇措置を盛り込んだ「西成区特区構想」を打ち出した。「西成区が変われば大阪が変わる」、「西成区をえこひいきする」と公言する橋下氏は、区政運営に直接関与する“直轄方式”を表明した。

しかし、現地で日雇い労働者たちの声を聞くと、橋下氏に対する不満の声も多い。

「橋下さんが大阪府知事時代、府に55歳以上の日雇い労働者による清掃事業の拡大を求めたが、財政難を理由に応じてもらえなかった。橋下さんは『弁護士時代から西成区のことはよく知っている』というが、ホンマにどれだけわかってくれとるんかな。

新住民があいりん地区周辺に来れば、“治安をどうにかしろ”と言い出すに決まっとる。警察を増員するんやて? そうなれば、“寝た子”を起こすことになるで」

「寝た子」とは、西成区で起こる暴動のことだ。

暴動の歴史は古く、1961年の「第1次暴動」以来、これまで24回発生している。2008年には、労働者の1人が西成署に連行されて暴行を受けたと主張したことをきっかけに、労働者や野次馬の若者が6日間にわたって西成署を取り囲んだ。空き缶や自転車のサドルが飛び交い、機動隊に労働者のリヤカーが突撃する場面もあった。

これ以外にも、飲食店の代金をめぐるトラブルや、「新装開店したパチンコ店の機械が故障して閉店した」という不満で暴動に発展した例もあるとされ、ほんの些細なことで住民が暴徒化する危険性を孕んでいる。

しかも、この暴動は必ずしも自然発生的なものではない。ある日雇い労働者は、こう明かす。

「地区内は労働者支援団体がいくつもあり、中には支援の一環で警察署や行政への抗議活動を請け負って我々の思いを代弁してくれてきた組織がある。不満が鬱積しているので、デモに同調する労働者が増えて、あっという間に暴動に発展するでしょうね」

東京都では、青島幸男・知事時代の1996年に、新宿駅西口地下道の「動く歩道」を建設するため、そこで寝起きしていたホームレスを強制排除した。すると大規模な反対運動が起き、警官隊が出動する騒ぎに発展した。西成区や東京・山谷などから駆け付けた支援者組織が、ホームレスとともにバリケードを築き、生卵や花火を投げつけるなど、警官隊とバトルを繰り広げた。

「今回も橋下氏が力ずくで労働者を排除しようものなら黙ってはいられないと、全国の労働者やホームレスの支援組織は注目して見守っています。そうした仲間には、橋下氏の『日の丸・君が代条例』に反対するなど、橋下氏と主義・信条が相容れない者が多い。橋下市政を何とかして潰したいと考えている」(支援組織のメンバー)

一般の日雇い労働者に生活の困窮と「あいりん地区浄化作戦」に対する不満が渦巻く中で、そうした組織の反橋下志向が結びつけば、過去に例を見ない大規模な「第25次西成暴動」に発展する可能性は日増しに高まっている。

ただ、橋下氏もそれを恐れて西成直轄プランを取り下げることはしないだろう。

ある市職員はこう語る。

「暴動が起こるのが面倒で、あいりん地区の整備が遅れてきたことは否めない」

西成特区計画が吉と出るか凶と出るか、戦々恐々の日々は続く。

※週刊ポスト2012年2月10日号

関連キーワード

関連記事

トピックス

大谷翔平の投手復帰が待ち望まれている状況だが…
大谷翔平「二刀流復活でもドジャースV逸」の悲劇を防ぐカギは“7月末トレード” 最悪のシナリオは「中途半端な形で二刀流本格復活」
週刊ポスト
フランスが誇る国民的俳優だったジェラール・ドパルデュー被告(EPA=時事)
「おい、俺の大きな日傘に触ってみろ」仏・国民的俳優ジェラール・ドパルデュー被告の“卑猥な言葉、痴漢、強姦…”を女性20人以上が告発《裁判で禁錮1年6か月の判決》
NEWSポストセブン
ホームランを放った後に、“デコルテポーズ”をキメる大谷(写真/AFLO)
《ベンチでおもむろにパシャパシャ》大谷翔平が試合中に使う美容液は1本1万7000円 パフォーマンス向上のために始めた肌ケア…今ではきめ細かい美肌が代名詞に
女性セブン
ブラジルへの公式訪問を終えた佳子さま(時事通信フォト)
《ブラジルでは“暗黙の了解”が通じず…》佳子さまの“ブルーの個性派バッグ3690レアル”をご使用、現地ブランドがSNSで嬉々として連続発信
NEWSポストセブン
告発文に掲載されていたBさんの写真。はだけた胸元には社員証がはっきりと写っていた
「深夜に観光名所で露出…」地方メディアを揺るがす「幹部のわいせつ告発文」騒動、当事者はすでに退職 直撃に明かした“事情”
NEWSポストセブン
“進次郎劇場”で自民党への逆風は止まったか
《進次郎劇場で支持率反転》自民党内に高まる「衆参ダブル選挙をやれば勝てる」の声 自民党の参院選情勢調査では与党で61議席、過半数を12議席上回る予測
週刊ポスト
異物混入が発覚した来来亭(HP/Xより)
「生肉からの混入はあり得ないとの回答を得た」“ウジ虫混入ラーメン”騒動、来来亭が調査結果を公表…虫の特定には至らず
NEWSポストセブン
左:激太り後の水原被告、右:2月6日、懲役刑を言い渡された時の水原被告(左:AFLO、右:時事通信)
《3度目の正直「ついに収監」》水原一平被告と最愛の妻はすでに別居状態か〈私の夢は彼と小さな結婚式を挙げること〉 ペットとの面会に米連邦刑務局は「ノー!ノー!ノー!」
NEWSポストセブン
“超ミニ丈”のテニスウェア姿を披露した園田選手(本人インスタグラムより)
《けしからん恵体で注目》プロテニス選手・園田彩乃「ほしい物リスト」に並ぶ生々しい高単価商品の数々…初のファンミ価格は強気のお値段
NEWSポストセブン
浅草・浅草寺で撮影された台湾人観光客の写真が物議を醸している(Xより)
「私に群がる日本のファンたち…」浅草・台湾人観光客の“#羞恥任務”が物議、ITジャーナリスト解説「炎上も計算の内かもしれません」
NEWSポストセブン
ブラジルを公式訪問されている秋篠宮家の次女・佳子さま(時事通信フォト)
《スヤスヤ寝顔動画で話題の佳子さま》「メイクは引き算くらいがちょうどよいのでは…」ブラジル訪問の“まるでファッションショー”な日替わり衣装、専門家がワンポイントアドバイス【軍地彩弓のファッションNEWS】
NEWSポストセブン
ヨグマタ相川圭子 ヒマラヤ大聖者の人生相談
ヨグマタ相川圭子 ヒマラヤ大聖者の人生相談【第24回】現在70歳。自分は、人に何かを与えられる存在だったのか…これから私にできることはありますか?
週刊ポスト