ライフ

最先端の脳腫瘍手術 医師と患者が会話しながら手術を進行

 ベストセラー『がんばらない』の著者で諏訪中央病院名誉院長の鎌田實氏は、チェルノブイリの子供たちへの医療支援などにも取り組んでいる。鎌田さんは最近、最先端の脳腫瘍手術の現場を見て、大変驚いたそうだ。
 
 * * *
 驚きの世界だ。脳外科医が患者さんと会話をしながら、脳腫瘍の切除をする光景が広がっていた。コメンテーターとして出演している日本テレビ『news every.』の「鎌田實の“がんばらないコーナー”」で、スタッフが東京女子医科大学脳神経外科の手術室を取材した。そのVTRを見て仰天したのだ。
 
 先端生命医科学研究所先端工学外科学の教授、村垣善浩さんは、脳神経外科の教授も兼任している。東京女子医大は早稲田大学と連携し、さらに日立メディコという企業らと産学協同で、最先端の手術システムを開発してきた。

 手術室の入り口には「インテリジェント手術室」の文字があった。聞き慣れない「情報誘導手術」というものが行なわれている。天井や壁には20台以上ものカメラが付いていて、大型のモニターもたくさん置かれていた。

 手術が始まった。執刀する丸山隆志講師は、患者さんに名前を告げてもらっている。そして「この絵はなんですか」とたずね、「バラです」といった話を交わしているのである。その後も執刀医が電気メスで脳の悪い部分を切除すると「順調ですよ」と声をかける。

 読者の方々は、どうしてこんなことができるのかと思うのではないだろうか。体や心の痛みを感じるのは脳である。しかし、脳細胞自体は、痛みを感じないのだ。まさにコロンブスの卵――。
 
 もちろん頭皮を切り、頭の骨を外すときは、痛みを止めなければならない。だが、いったんそれを終え、脳腫瘍を切除する段階になれば、患者さんは痛みを感じないから、意識があっても、手術ができるのだ。

 僕がいちばんすごいと思うのは、この手術では、患者さんの自己決定権が守られているということだ。これまでは、麻酔をかけられていたため、手術中に自身での判断ができなかった。

 リスクが大きな手術の場合、手術中に患者さんの家族を手術室に呼んで「万が一、手足が動かなくなるかもしれません」と伝える一方で、できるだけ腫瘍を取りきるのか、無理をしないのかを、家族の判断に委ねてきた。

 しかしこの手術なら、患者さん自身に直接確認をとれるのである。それぞれの人生観で「無理をしないで」という人もいれば、「できるだけ取りきってほしい」という人もいる。ぎりぎりのところで命の判断を自分でできるのは、素晴らしいことだ。患者さんが自分で納得している分、たとえ軽いマヒが残ったとしても、リハビリにも積極的に取り組めるはずだ。

※週刊ポスト2012年2月17日号

関連キーワード

関連記事

トピックス

安福久美子容疑者(69)の高場悟さんに対する”執着”が事件につながった(左:共同通信)
「『あまり外に出られない。ごめんね』と…」”普通の主婦”だった安福久美子容疑者の「26年間の隠伏での変化」、知人は「普段通りの生活が“透明人間”になる手段だったのか…」《名古屋主婦殺人》
NEWSポストセブン
兵庫県知事選挙が告示され、第一声を上げる政治団体「NHKから国民を守る党」党首の立花孝志氏。2024年10月31日(時事通信フォト)
《名誉毀損で異例逮捕》NHK党・立花孝志容疑者は「NHKをぶっ壊す」で政界進出後、なぜ“デマゴーグ”となったのか?臨床心理士が分析
NEWSポストセブン
2025年九州場所
《デヴィ夫人はマス席だったが…》九州場所の向正面に「溜席の着物美人」が姿を見せる 四股名入りの「ジェラートピケ浴衣地ワンピース女性」も登場 チケット不足のなか15日間の観戦をどう続けるかが注目
NEWSポストセブン
「第44回全国豊かな海づくり大会」に出席された(2025年11月9日、撮影/JMPA)
《海づくり大会ご出席》皇后雅子さま、毎年恒例の“海”コーデ 今年はエメラルドブルーのセットアップをお召しに 白が爽やかさを演出し、装飾のブレードでメリハリをつける
NEWSポストセブン
昨年8月末にフジテレビを退社した元アナウンサーの渡邊渚さん
「今この瞬間を感じる」──PTSDを乗り越えた渡邊渚さんが綴る「ひたむきに刺し子」の効果
NEWSポストセブン
三田寛子と能條愛未は同じアイドル出身(右は時事通信)
《中村橋之助が婚約発表》三田寛子が元乃木坂46・能條愛未に伝えた「安心しなさい」の意味…夫・芝翫の不倫報道でも揺るがなかった“家族としての思い”
NEWSポストセブン
三重県を訪問された天皇皇后両陛下(2025年11月8日、撮影/JMPA)
「秋らしいブラウンコーデも素敵」皇后雅子さま、ワントーンコーデに取り入れたのは30年以上ご愛用の「フェラガモのバッグ」
NEWSポストセブン
八田容疑者の祖母がNEWSポストセブンの取材に応じた(『大分県別府市大学生死亡ひき逃げ事件早期解決を願う会』公式Xより)
《別府・ひき逃げ殺人》大分県警が八田與一容疑者を「海底ゴミ引き揚げ」 で“徹底捜査”か、漁港関係者が話す”手がかり発見の可能性”「過去に骨が見つかったのは1回」
愛子さま(撮影/JMPA)
愛子さま、母校の学園祭に“秋の休日スタイル”で参加 出店でカリカリチーズ棒を購入、ラップバトルもご観覧 リラックスされたご様子でリフレッシュタイムを満喫 
女性セブン
悠仁さま(撮影/JMPA)
悠仁さま、筑波大学の学園祭を満喫 ご学友と会場を回り、写真撮影の依頼にも快く応対 深い時間までファミレスでおしゃべりに興じ、自転車で颯爽と帰宅 
女性セブン
クマによる被害が相次いでいる(getty images/「クマダス」より)
「胃の内容物の多くは人肉だった」「(遺体に)餌として喰われた痕跡が確認」十和利山熊襲撃事件、人間の味を覚えた“複数”のツキノワグマが起こした惨劇《本州最悪の被害》
NEWSポストセブン
近年ゲッソリと痩せていた様子がパパラッチされていたジャスティン・ビーバー(Guerin Charles/ABACA/共同通信イメージズ)
《その服どこで買ったの?》衝撃チェンジ姿のジャスティン・ビーバー(31)が“眼球バキバキTシャツ”披露でファン困惑 裁判決着の前後で「ヒゲを剃る」発言も
NEWSポストセブン