国内

MBSは橋下氏がエキセントリックだと思われる編集したと指摘

 橋下徹氏はメディアをツイッターなどを使って激しい言葉で批判してきた。通常の記者会見や囲み取材においても、単に質問に答えるだけでなく、記者と議論になることが多い。そうした“バトル”において橋下氏がメディアに突きつけている問題の本質は何なのか。ジャーナリストの上杉隆氏が解説する。

 * * *
 去る5月8日、大阪市庁に登庁した橋下徹市長に対して行なわれた「囲み取材」において、橋下氏とMBS(毎日放送)の女性記者との間で30分近くにわたって繰り広げられた“バトル”が、ネット上や一部の紙媒体で大きな話題になった。

 MBSの記者は、3月に行なわれた大阪府の府立学校の卒業式における君が代の起立斉唱命令について質問したのだが、記者が基本的な事実関係について理解していないと感じた橋下氏は、「起立斉唱命令は誰が誰に出したのか」と逆質問した。

「質問するのはこちらだ」と言って記者はなかなか答えようとしないが、橋下氏が繰り返し答えを求めると、ようやく「(命令の主体は)教育長」などと答えた。だが、記者の答えはいずれも間違いだった(正しくは「教育委員会が」、「全教員に」)。

 この他にも、記者が、教育行政における教育委員会と首長の権限分配などについて理解していないと受け取れる質問を繰り返したため、橋下氏は「勉強不足だ」「取材をする側として失礼だ」「とんちんかんな質問だ」などと強い口調で反論した。

 後述するように、この記者会見の動画はネット上にアップされており、それを見た一般人からは「橋下の完全勝利」「大手メディア記者の敗北」といった快哉を叫ぶ書き込みが相次いだ。その後、MBSはこの会見をどのように報じたか。

 この3日後、MBSの夕方の報道番組「VOICE」の中で15分程度、君が代の起立斉唱問題が批判的に取り上げられた。そこで使われた会見の映像は、橋下氏から批判された記者の質問や記者を批判する橋下氏の言葉が全てカットされ、起立斉唱問題についての橋下氏の強い口調の発言だけがつなぎ合わされていた。

 仮に視聴者が番組だけを見たならば、橋下氏がいかにもエキセントリックな人物であり、自らの権限で強権的に起立斉唱を行なわせたという印象を持ったとしてもおかしくない作り方だった。質問した記者の「勉強不足」は隠されている。

 実はこれはメディアの常套手段である。何らかの理由で気に入らない政治家、自らと異なる主張を持つ政治家などを貶めるために、平気で恣意的な編集を行なうのである。もちろん、自らの「勉強不足」という恥を晒すことはしたくないので、自分たちの的外れな質問、意味のない質問はネグり、“なかったこと”にしてしまう。

 だが、インターネットの発達した今、そうした情報コントロールや隠蔽は通じなくなってきた。

 よく知られていることだが、橋下氏の定例記者会見は市のHPで生中継されている。つまり、生の情報=橋下氏の発言を、一切の加工なしに流す「ダダ漏れ」スタイルを取っているのである。しかも、アーカイブとして保存される。「囲み取材」の映像も、市のHPからリンクされたユーチューブにアップされている。そうした映像は過去に遡って、誰もが、いつでも、自由に見ることができる。もちろん、これは橋下氏の方針だ。

 これにより、記者会見という取材現場が一般の人に向けて可視化され、メディアによる恣意的な編集が暴露され、メディアの無知、無理解、不勉強などが白日の下に晒されてしまうようになったのだ。

 実際、橋下氏はMBSの番組が放送された後のツイッターで、〈僕と記者とのやり取りが全て可視化されていて良かった〉〈番組見たらびっくりしたよ。記者とのやり取りは全部カットされて僕は頭のおかしい市長そのもの〉などとツイートしている。

※SAPIO2012年6月27日号

関連キーワード

関連記事

トピックス

(写真/共同通信)
《神戸マンション刺殺》逮捕の“金髪メッシュ男”の危なすぎる正体、大手損害保険会社員・片山恵さん(24)の親族は「見当がまったくつかない」
NEWSポストセブン
列車の冷房送風口下は取り合い(写真提供/イメージマート)
《クーラーの温度設定で意見が真っ二つ》電車内で「寒暖差で体調崩すので弱冷房車」派がいる一方で、”送風口下の取り合い”を続ける汗かき男性は「なぜ”強冷房車”がないのか」と求める
NEWSポストセブン
アメリカの女子プロテニス、サーシャ・ヴィッカリー選手(時事通信フォト)
《大坂なおみとも対戦》米・現役女子プロテニス選手、成人向けSNSで過激コンテンツを販売して海外メディアが騒然…「今まで稼いだ中で一番楽に稼げるお金」
NEWSポストセブン
ジャスティン・ビーバーの“なりすまし”が高級クラブでジャックし出禁となった(X/Instagramより)
《あまりのそっくりぶりに永久出禁》ジャスティン・ビーバー(31)の“なりすまし”が高級クラブを4分27秒ジャックの顛末
NEWSポストセブン
愛用するサメリュック
《『ドッキリGP』で7か国語を披露》“ピュアすぎる”と話題の元フィギュア日本代表・高橋成美の過酷すぎる育成時代「ハードな筋トレで身長は低いまま、生理も26歳までこず」
NEWSポストセブン
「舌出し失神KO勝ち」から42年後の真実(撮影=木村盛綱/AFLO)
【追悼ハルク・ホーガン】無名のミュージシャンが「プロレスラーになりたい」と長州力を訪問 最大の転機となったアントニオ猪木との出会い
週刊ポスト
野生のヒグマの恐怖を対峙したハンターが語った(左の写真はサンプルです)
「奴らは6発撃っても死なない」「猟犬もビクビクと震え上がった」クレームを入れる人が知らない“北海道のヒグマの恐ろしさ”《対峙したハンターが語る熊恐怖体験》
NEWSポストセブン
大谷が購入したハワイの別荘に関する訴訟があった(共同通信)
「オオタニは代理人を盾に…」黒塗りの訴状に記された“大谷翔平ビジネスのリアル”…ハワイ25億円別荘の訴訟騒動、前々からあった“不吉な予兆”
NEWSポストセブン
話題を集めた佳子さま着用の水玉ワンピース(写真/共同通信社)
《夏らしくてとても爽やかとSNSで絶賛》佳子さま“何年も同じ水玉ワンピースを着回し”で体現する「皇室の伝統的な精神」
週刊ポスト
ヒグマの親子のイメージ(時事通信)
《駆除個体は名物熊“岩尾別の母さん”》地元で評判の「大人しいクマ」が人を襲ったワケ「現場は“アリの巣が沢山出来る”ヒヤリハット地点だった」【羅臼岳ヒグマ死亡事故】
NEWSポストセブン
真美子さんが信頼を寄せる大谷翔平の代理人・ネズ・バレロ氏(時事通信)
《“訴訟でモヤモヤ”の真美子さん》スゴ腕代理人・バレロ氏に寄せる“全幅の信頼”「スイートルームにも家族で同伴」【大谷翔平のハワイ別荘訴訟騒動】
NEWSポストセブン
中居正広氏の騒動はどこに帰着するのか
《中居正広氏のトラブル事案はなぜ刑事事件にならないのか》示談内容に「刑事告訴しない」条項が盛り込まれている可能性も 示談破棄なら状況変化も
週刊ポスト