国内

斑目委員長 電力会社となあなあの“御用学者”と大前氏指摘

 国会の原発事故調査委員会(黒川清委員長)の最終報告は、原発事故は人災だったとして、「日本人の国民性」が事故を拡大させたと指摘した。元原子炉設計者である大前研一氏は、人災などの指摘は的外れであり、何重もの安全技術で守られていたはずの原発が今回のような事故に至ったのかという技術的・根本的な検証こそが事故調査の第一義ではないかと疑問を呈する。

 * * *
 工学的に見て設計段階での最大の問題は、地震・津波被害をちゃんと「想定」していなかったことに加え、長期間にわたる全交流電源の喪失は考えなくてよいと言っていた人々がいることだ。

 つまり、1990年8月30日付で原子力安全委員会が決定した「発電用軽水型原子炉施設に関する安全設計審査指針」に「長期間にわたる全交流動力電源喪失は、送電線の復旧又は非常用交流電源設備の修復が期待できるので考慮する必要はない」という、とんでもない文章が盛り込まれていたのである。

 しかも実は、この文章でよいかどうか、原子力安全委員会が東京電力に“お伺い”を立て、東電が「訂正なし」と答えるという手順を踏んでいたことも明らかになった。この点は国会事故調が問題視している通り“ルールで縛られるべき人がルールを作っている”矛盾であり、原子力安全委員会と電力会社が完全に癒着していたことの証左である。

 その象徴が、原子力安全委員会の班目(まだらめ)春樹委員長だ。私の手元には、班目委員長が「原子力ムラ」の住人だったことを示す“証拠”がある。経産省の「保守管理検討会 保守管理技術評価WG(ワーキンググループ)検討状況」(2007年)というA4判38枚の資料で、このWGの主査を務めていたのが、東京大学大学院教授の班目氏なのだ。

 このWGは、当時13か月以内だった日本の原子炉の運転期間(定期検査間隔)を、フランス並みの18か月以内やアメリカ並みの24か月以内に引き延ばすことなどを議論したもので、その結果、2009年1月の経産省令施行によって検査制度が変更され、「18か月以内」「24か月以内」への延長が可能になった。それに伴い、東通原発1号機と福島第二原発3号機が16か月への延長を申請したが、その直後に東日本大震災が起きたため、従来のままになっている。

 要するに班目氏は電力会社となあなあの関係にあった“御用学者”であり、電力会社の依頼を受けてWGの主査を務めていたものと私は見ている。原子力安全委員会の委員長までが原子力ムラの住人だったというか、もともと原子力ムラの住民だった人間が原子力安全委員会の委員長になっていたわけで、これこそが福島第一原発事故で原子力安全委員会が機能しなかった理由にほかならない。

 班目氏はプラント屋で炉心に関する専門知識が足りなかっただけでなく、世話になっている東電や原子力安全・保安院の意に反することを菅直人首相にアドバイスするわけにはいかなかったのだろう。

 その点、私は原子力ムラとは利害関係ゼロである。一市民としての「怒り」と、元原子炉設計者としての「反省」から、ボランティアで細野豪志原発相の了承・依頼のもとで独自に調査・分析を行なった(7月下旬に小学館より『原発再稼働「最後の条件」「福島第一」事故検証プロジェクト 最終報告書』として発刊)。

 それでわかったのは、かつて原子炉設計者をしていた当時の私自身も含めて、すべての原子力関係者は間違っていた、という紛れもない事実である。ところが、その反省の言葉が日本から発信されていないため、世界中の原子力関係者は未だに反省していない。「日本独自の想定外の津波でした」と言うから、世界中が「ああ、よかった」となって気持ちが緩んでいる。これは、犯罪だと私は思う。

 今度の国会事故調の最終報告書は、事故原因を菅首相や原発関係者らの「人災」としたことで、海外では「権威に責任を問わない姿勢」「集団で責任を負う文化」を持つ日本独特の文化や日本人の国民性に問題があると報じられた。

 これでは、世界中の原子力関係者の誰一人としてきちんと事故原因を理解しないままで終わってしまう。原発事故が人災であることは間違いない。しかし、その人災とは、日本人の国民性に帰着するような話ではなく、今回の福島第一原発の事故で明るみに出たような原子炉の設計思想そのものの欠陥について、電力会社や政府、原子力安全委員会が思考停止に陥ったまま、原発を動かしてきたという意味での人災なのである。

※SAPIO2012年8月1・8日号

関連記事

トピックス

グリーンの縞柄のワンピースをお召しになった紀子さま(7月3日撮影、時事通信フォト)
《佳子さまと同じブランドでは?》紀子さま、万博で着用された“縞柄ワンピ”に専門家は「ウエストの部分が…」別物だと指摘【軍地彩弓のファッションNEWS】
NEWSポストセブン
一般家庭の洗濯物を勝手に撮影しSNSにアップする事例が散見されている(画像はイメージです)
干してある下着を勝手に撮影するSNSアカウントに批判殺到…弁護士は「プライバシー権侵害となる可能性」と指摘
NEWSポストセブン
亡くなった米ポルノ女優カイリー・ペイジさん(インスタグラムより)
《米ネトフリ出演女優に薬物死報道》部屋にはフェンタニル、麻薬の器具、複数男性との行為写真…相次ぐ悲報に批判高まる〈地球上で最悪の物質〉〈毎日200人超の米国人が命を落とす〉
NEWSポストセブン
和久井学被告が抱えていた恐ろしいほどの“復讐心”
「プラトニックな関係ならいいよ」和久井被告(52)が告白したキャバクラ経営被害女性からの“返答” 月収20〜30万円、実家暮らしの被告人が「結婚を疑わなかった理由」【新宿タワマン殺人・公判】
NEWSポストセブン
民放ドラマ初主演の俳優・磯村勇斗
《ムッチ先輩から1年》磯村勇斗が32歳の今「民放ドラマ初主演」の理由 “特撮ヒーロー出身のイケメン俳優”から脱却も
NEWSポストセブン
松竹芸能所属時のよゐこ宣材写真(事務所HPより)
《「よゐこ」の現在》濱口優は独立後『ノンストップ!』レギュラー終了でYouTubeにシフト…事務所残留の有野晋哉は地上波で新番組スタート
NEWSポストセブン
山下市郎容疑者(41)はなぜ凶行に走ったのか。その背景には男の”暴力性”や”執着心”があった
「あいつは俺の推し。あんな女、ほかにはいない」山下市郎容疑者の被害者への“ガチ恋”が強烈な殺意に変わった背景〈キレ癖、暴力性、執着心〉【浜松市ガールズバー刺殺】
NEWSポストセブン
英国の大学に通う中国人の留学生が性的暴行の罪で有罪に
「意識が朦朧とした女性が『STOP(やめて)』と抵抗して…」陪審員が涙した“英国史上最悪のレイプ犯の証拠動画”の存在《中国人留学生被告に終身刑言い渡し》
NEWSポストセブン
早朝のJR埼京線で事件は起きた(イメージ、時事通信フォト)
《「歌舞伎町弁護士」に切実訴え》早朝のJR埼京線で「痴漢なんてやっていません」一貫して否認する依頼者…警察官が冷たく言い放った一言
NEWSポストセブン
橋本環奈と中川大志が結婚へ
《橋本環奈と中川大志が結婚へ》破局説流れるなかでのプロポーズに「涙のYES」 “3億円マンション”で育んだ居心地の良い暮らし
NEWSポストセブン
10年に及ぶ山口組分裂抗争は終結したが…(司忍組長。時事通信フォト)
【全国のヤクザが司忍組長に暑中見舞い】六代目山口組が進める「平和共存外交」の全貌 抗争終結宣言も駅には多数の警官が厳重警戒
NEWSポストセブン
遠野なぎこ(本人のインスタグラムより)
《前所属事務所代表も困惑》遠野なぎこの安否がわからない…「親族にも電話が繋がらない」「警察から連絡はない」遺体が発見された部屋は「近いうちに特殊清掃が入る予定」
NEWSポストセブン