国内

政治を一新させる落選運動 韓国では2000年に一挙に59人落選

 数年に一度、総選挙で国会議員を選び直しても、日本の政治が一向に変わらないという思いを多くの国民が共有している。それもそのはず、私たちの投票行動はこれまで「漫然と選ぶ」だけであって、「真剣に落とす」ことを怠っていた。

 落選運動――有権者が行使できる「最も過激な選挙行動」を行なわなければならないほどに、この国の議会制民主主義は脅かされている。

 国政進出をめざす大阪維新の会の橋下徹・大阪市長が選挙のあり方に大きな一石を投じた。総選挙公約『維新八策』で衆院定数の大幅削減(240人)を打ち出し、議員の半数をクビにすべきとぶちあげたのだ。

 橋下氏はその理由をツイッターでこう書いている。

「国会議員は本来、国全体の民意汲むことが使命です。ところが実際は、地方議員レベルの民意を汲む役割をしている。盆踊り、葬式、その他地域行事に出倒す。そのことによって小さな範囲の民意に拘束される。国全体のことを考えての判断ができない」

 現行の衆院選挙制度は2大政党の当選互助会だ。仮に2大政党が小選挙区全部に候補者を立て、全員比例に重複立候補させた場合、計算上、結果が伯仲すれば比例復活を含めて両党の候補者の7~8割が当選できる。事実、小選挙区制で行なわれた過去5回の総選挙では、新人議員の当選割合は平均で24%に過ぎない。

 大物議員が落選し、「政治が変わった」と騒がれた2005年の郵政選挙でも、2009年の政権交代選挙でも、前職・元職の7割が永田町に舞い戻っているのが現実なのだ。漫然と投票していると、落選したはずの候補がいつの間にかバッジをつけている。だから議員は国民を裏切っても平気になってしまう。

 それを象徴するのが、マニフェストを次々に撤回して増税の旗を振った責任者、岡田克也・副総理が中央大学の講演で若者に向かって吐いた次の言葉である。

「けしからんというなら、次の選挙でそういう投票行動をしてもらえばいい」

 イオングループの御曹司で、自分は落選しないと有権者を舐めきって、“嫌なら落選させてみろ”と開き直ったのだ。

 橋下氏の問題提起は、有権者も「漫然と議員を選ぶ」選挙から、「真剣に落とす」選挙への投票行動の転換を求められることを意味する。それは政治家の慢心に鉄槌を下す有力な手段でもある。

 かつて古代ギリシャの都市国家には「陶片追放」という制度があった。市民が国家に害をなす危険な政治家の名前を陶片に刻んで投票し、最多得票の者を国外追放して民主制を安定させる制度だ。落選運動のルーツである。

 現代でも落選運動は各国で大きな役割を果たしてきた。議院内閣制のインドでは、1977年、強権政治を行なっていたインディラ・ガンジー首相が勝利を見込んで総選挙に臨んだものの、「反インディラ運動」が起きて与党が敗北、インディラ自身も落選した。韓国では2000年総選挙で市民団体によるネットを利用した大規模な落選運動が展開され、腐敗政治家などにリストアップされた59人が落選した。

 政権党にとって民衆パワーは脅威であり、それを機に落選運動自体が規制されたほどだった。米国の保守派「ティーパーティー」による反増税運動(※注)も、落選運動の一種とされる。

 民主国家において選挙の意義は、有権者が望む候補者を当選させるだけではない。望まない政治家を落選させ、政治を一新する手段でもある。

【※注】米ティーパーティー運動の全国団体「ティーパーティー・エクスプレス」は、2010年11月の中間選挙に際し、落選に追い込むべき民主党議員の実名を公表するなどの反増税キャンペーンを行なった。

※週刊ポスト2012年9月21・28日号

関連記事

トピックス

真剣交際していることがわかった斉藤ちはると姫野和樹(各写真は本人のインスタグラムより)
《匂わせインスタ連続投稿》テレ朝・斎藤ちはるアナ、“姫野和樹となら世間に知られてもいい”の真剣愛「彼のレクサス運転」「お揃いヴィトンのブレスレット」
NEWSポストセブン
破局した大倉忠義と広瀬アリス
《スクープ》広瀬アリスと大倉忠義が破局!2年交際も「仕事が順調すぎて」すれ違い、アリスはすでに引っ越し
女性セブン
交際中のテレ朝斎藤アナとラグビー日本代表姫野選手
《名古屋お泊りデート写真》テレ朝・斎藤ちはるアナが乗り込んだラグビー姫野和樹の愛車助手席「無防備なジャージ姿のお忍び愛」
NEWSポストセブン
優勝11回を果たした曙太郎さん(時事通信フォト)
故・曙太郎さん 史上初の外国出身横綱が角界を去った真相 「結婚で生じた後援会との亀裂」と「“高砂”襲名案への猛反対」
週刊ポスト
伊藤沙莉は商店街でも顔を知られた人物だったという(写真/AFP=時事)
【芸歴20年で掴んだ朝ドラ主演】伊藤沙莉、不遇のバイト時代に都内商店街で見せていた“苦悩の表情”と、そこで覚えた“大人の味”
週刊ポスト
大谷の妻・真美子さん(写真:西村尚己/アフロスポーツ)と水原一平容疑者(時事通信)
《水原一平ショックの影響》大谷翔平 真美子さんのポニーテール観戦で見えた「私も一緒に戦うという覚悟」と夫婦の結束
NEWSポストセブン
中国「抗日作品」多数出演の井上朋子さん
中国「抗日作品」多数出演の日本人女優・井上朋子さん告白 現地の芸能界は「強烈な縁故社会」女優が事務所社長に露骨な誘いも
NEWSポストセブン
大谷翔平
大谷翔平、ハワイの25億円別荘購入に心配の声多数 “お金がらみ”で繰り返される「水原容疑者の悪しき影響」
NEWSポストセブン
【全文公開】中森明菜が活動再開 実兄が告白「病床の父の状況を伝えたい」「独立した今なら話ができるかも」、再会を願う家族の切実な思い
【全文公開】中森明菜が活動再開 実兄が告白「病床の父の状況を伝えたい」「独立した今なら話ができるかも」、再会を願う家族の切実な思い
女性セブン
大谷翔平と妻の真美子さん(時事通信フォト、ドジャースのインスタグラムより)
《真美子さんの献身》大谷翔平が進めていた「水原離れ」 描いていた“新生活”と変化したファッションセンス
NEWSポストセブン
国が認めた初めての“女ヤクザ”西村まこさん
犬の糞を焼きそばパンに…悪魔の子と呼ばれた少女時代 裏社会史上初の女暴力団員が350万円で売りつけた女性の末路【ヤクザ博士インタビュー】
NEWSポストセブン
韓国2泊3日プチ整形&エステ旅をレポート
【韓国2泊3日プチ整形&エステ旅】54才主婦が体験「たるみ、しわ、ほうれい線」肌トラブルは解消されたのか
女性セブン