ここ数年、ビジネスホテルの数は全国各地で急増し、不況にもかかわらず空前の活況を見せている。
観光庁の「宿泊旅行統計」によれば、2008年に3170軒だった施設数は、今年は3940軒と約770軒も急増。同期間に旅館は約420軒増、シティホテルは10軒増なので、勢いの違いは明らかだ。
毎年1月の延べ宿泊者数を見ても、ビジネスホテルは980万人で、5年前の同時期と比べると200万人も増加している。旅館は60万人減の556万人、シティホテルは30万人増の465万人である。出張利用のサラリーマンだけでなく、最近では節約志向の観光客が泊まるケースも増えており、旅館やシティホテルの客を奪っているようだ。
東京のビジネスホテルの客室稼働率は、震災の影響により、2011年4~6月期は前年同期より10.8ポイント低い62.6%に落ち込んだものの、今年6月時点で67.4%と震災前をやや上回るほどに回復している(観光庁調査)。
都内では今年3月に、「アパホテル神田駅東」や「リッチモンドホテル浅草」などが相次いでオープン、年末にかけて新規店はまだ増える見込みだ。いま、ビジネスホテル業界の「勢力図」はどうなっているのか。
各社のHPや決算報告書(2012年3月期)などを見ると、「ルートイン」が売上高623億円、ホテル数243店、「東横イン」が621億円、244店と2強で独走する。
これを猛追するのが、「アパホテル」を展開するアパグループ。現在175店だが、「APA頂上作戦」と名付けて都内に出店ラッシュをかけている。同社は「2010年から中期五カ年計画として80物件50ホテルの展開を予定している」(東京本社代表室)と鼻息は荒い。続く「スーパーホテル」、「ワシントンホテル」や「ドーミーイン」、「リッチモンド」も、知名度を上げている。
また最近、東京のこうした勢力を脅かしているのが、ホテル事業を手掛け、都心に“殴り込み”をかけてきた関西や地方の鉄道各社だ。
JR西日本グループの「ヴィアイン」は2009年に大井町に1号店を開業したのを皮切りに、昨年から今年にかけて、秋葉原、新宿、東銀座と立て続けに出店した。また2007年から新たにホテル事業に参入した相鉄グループも、「相鉄フレッサイン」を浜松町や人形町に出店もしくは新規開業を予定している。
相鉄は相模鉄道がJR東日本や東京急行電鉄との相互直通運転を2015~2019年に予定しており、沿線への知名度アップにビジネスホテルを活用したい狙いも見え隠れする。
近年のビジネスホテル増殖の理由について、都内のある不動産業者はこう指摘する。
「リーマン・ショック後に都心でオフィスが余り、空室率が高止まりした。そのためオーナーが、長期賃貸契約で安定収益を得やすいビジネスホテルに物件を貸したがっているのです」
※週刊ポスト2012年11月30日号