国内

別名「たばこ病」のCOPD「適量守れば禁煙の必要なし」と識者

COPDという病名を聞いて、どれほどの人がピンとくるだろうか。正式には「慢性閉塞性肺疾患」といい、肺気腫や慢性気管支炎といった病気の総称をこう呼ぶようになった。

 何週間も続く咳や歩行中の息切れが激しくなったら真っ先にCOPDが疑われる。重症化しながら放っておけば、肺炎はおろか、骨粗しょう症や動脈硬化などの病気を併発する恐れもあるという。東京都内の呼吸器科医師はこう話す。

「気管支炎や肺炎はありふれた病気だからといって侮ってはいけません。肺は血液中の酸素と二酸化炭素を入れ替える働きをする大事な臓器。このガス交換を行なっているのが気管支の先についている肺胞で、ここの炎症度合いが進めば、呼吸困難で日常生活を送ることさえままならなくなる危険性があります」

 厚生労働省の調査(2008年)によると、現在、COPDの国内推計患者数は約530万人と見られているが、そのうち病院で診察・治療を受けた患者はわずか17万人程度。早期発見・治療の重要性がなかなか認知されないために、COPDによる死亡順位は2010年に9位に浮上してしまった――と、医師や患者団体などが啓蒙活動を急いでいる。

 そこで、持ち出されている身近な予防法が「禁煙」のススメである。

「COPDは喫煙、ちり、化学物質などを吸い込むことで起き、特に原因の9割はたばこの煙。喫煙者の2割が吸い始めてから20~30年後に発症するとされています。百害あって一利なしのたばこは止めるに越したことはありません」(前出の医師)

 しかし、「すぐに禁煙、禁煙という医師は信用できない」と、たばこ害悪論を真っ向から否定するのは、中部大学教授の武田邦彦氏だ。

「もちろんCOPDにたばこが無関係だとは思いませんが、1日の喫煙本数×年数で700を超えなければCOPDの危険は高まらないといわれています。例えば25歳から60歳までの35年間、1日1箱(20本)を吸ったとしてちょうど700。つまり、1日1箱以内ならたばこも楽しみながら吸っていい。無理に禁煙することはありませんよ」

 武田氏の話す目安は「ブリンクマン指数」といい、400以上でCOPDの発症率が高まると指摘する医師もいるが、近年主流になっている低タール、低ニコチンのたばこを長年吸っていれば、弾き出した指数も差し引きできる。

 そもそも、COPD患者の9割がたばこによる原因と決め付け、「たばこ病」の別名まで付けてしまうのは、少々乱暴すぎないか。

「肺がんの先入観と同じ構図です。男性の喫煙率は1966年の83.7%をピークに減り続け、いまや半分以下の40%を切っています。にもかかわらず、肺がんで亡くなる人は当時の5倍、6~7万人もいます。逆比例したグラフを見れば一目瞭然です。われわれの生活様式の中には、たばこ以外の環境的要因で肺の病気を引き起こしているものが多い。その正体を見つけることなく、たばこにだけ罪を被せるのはおかしい」(武田氏)

 排ガスや粉塵、タイヤの削りかすといった大気汚染、社会問題化するアスベストや部屋の汚れ……。武田氏は人々の呼吸器官を狂わすあらゆる可能性を疑うべきだと語気を強める。

 順天堂大学医学部教授の奥村康氏は、専門の免疫学の観点から、たばこの“効用”について解説する。

「たばこを吸っている人のほうが口内炎ができにくいし、風邪もひきにくい。つまり、たばこを吸うと軽い炎症が起きるので、それが適度な刺激となって免疫力を上げることもあるのです」

 武田氏も適度な喫煙習慣がかえって健康維持のバロメーターになると話す。

「たばこは精神を安定させ、ストレスを解放し、脳の働きを活発にして創造的な文化を産み出す重要なアイテムです。ストレスフルな社会に自殺予防にもなります。酒もたばこも『やる』『やらない』の二者択一ではなく、適量を嗜むなら体に害を及ぼさず健康な生活を送れるということを、肩身の狭い愛煙家の人たちに伝えたいと思います」

 百害も適量を守ればクスリの効用さえ生まれ、一利が十利になる――。COPDの認知や治療推進も、たばこ一辺倒ではなく、広範な原因究明をしなければ患者数の減少にはつながらないのかもしれない。

関連キーワード

関連記事

トピックス

米利休氏のTikTok「保証年収15万円」
東大卒でも〈年収15万円〉…廃業寸前ギリギリ米農家のリアルとは《寄せられた「月収ではなくて?」「もっとマシなウソをつけ」の声に反論》
NEWSポストセブン
埼玉では歩かずに立ち止まることを義務づける条例まで施行されたエスカレーター…トラブルが起きやすい事情とは(時事通信フォト)
万博で再燃の「エスカレーター片側空け」問題から何を学ぶか
NEWSポストセブン
趣里と父親である水谷豊
《趣里が結婚発表へ》父の水谷豊は“一切干渉しない”スタンス、愛情溢れる娘と設立した「新会社」の存在
NEWSポストセブン
SNS上で「ドバイ案件」が大騒動になっている(時事通信フォト)
《ドバイ“ヤギ案件”騒動の背景》美女や関係者が証言する「砂漠のテントで女性10人と性的パーティー」「5万米ドルで歯を抜かれたり、殴られたり」
NEWSポストセブン
事業仕分けで蓮舫行政刷新担当大臣(当時)と親しげに会話する玉木氏(2010年10月撮影:小川裕夫)
《キョロ充からリア充へ?》玉木雄一郎代表、国民民主党躍進の背景に「なぜか目立つところにいる天性の才能」
NEWSポストセブン
“赤西軍団”と呼ばれる同年代グループ(2024年10月撮影)
《赤西仁と広瀬アリスの交際》2人を結びつけた“軍団”の結束「飲み友の山田孝之、松本潤が共通の知人」出会って3か月でペアリングの意気投合ぶり
NEWSポストセブン
米利休氏とじいちゃん(米利休氏が立ち上げたブランド「利休宝園」サイトより)
「続ければ続けるほど赤字」とわかっていても“1998年生まれ東大卒”が“じいちゃんの赤字米農家”を継いだワケ《深刻な後継者不足問題》
NEWSポストセブン
田村容疑者のSNSのカバー画像
《目玉が入ったビンへの言葉がカギに》田村瑠奈の母・浩子被告、眼球見せられ「すごいね。」に有罪判決、裁判長が諭した“母親としての在り方”【ススキノ事件公判】
NEWSポストセブン
アメリカから帰国後した白井秀征容疑(時事通信フォト)
「ガイコツが真っ黒こげで…こんな残虐なこと、人間じゃない」岡崎彩咲陽さんの遺体にあった“異常な形跡”と白井秀征容疑者が母親と交わした“不穏なメッセージ” 〈押し入れ開けた?〉【川崎ストーカー死体遺棄】
NEWSポストセブン
赤西と元妻・黒木メイサ
《赤西仁と広瀬アリスの左手薬指にペアリング》沈黙の黒木メイサと電撃離婚から約1年半、元妻がSNSで吐露していた「哺乳瓶洗いながら泣いた」過去
NEWSポストセブン
元交際相手の白井秀征容疑者からはおびただしい数の着信が_(本人SNS/親族提供)
《川崎ストーカー死体遺棄》「おばちゃん、ヒデが家の近くにいるから怖い。すぐに来て」20歳被害女性の親族が証言する白井秀征容疑者(27)の“あまりに執念深いストーカー行為”
NEWSポストセブン
不倫疑惑が報じられた田中圭と永野芽郁
《永野芽郁のほっぺたを両手で包み…》田中圭 仲間の前でも「めい、めい」と呼ぶ“近すぎ距離感” バーで目撃されていた「だからさぁ、あれはさ!」
NEWSポストセブン