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春画からわかる自由で平等な性と共生社会を築いた江戸時代

 日本人より世界が高く評価する江戸時代の春画の数々の名作の数々が、2013年10月、大英博物館で特別展として一堂に会する。喜多川歌麿や葛飾北斎など、江戸時代に浮世絵師として活躍した一流絵師らが制作に勤しんだことで、男女の秘め事を描いた春画は、芸術性を高め多くの傑作を残した。

 春画が隆盛したもうひとつの背景は、江戸時代の自由で奔放な性文化だった。「公然わいせつ罪」などもなく、家の外でもお構いなし。不倫、売春、老若貴賎などお互いの関係性も問わず、男女は性を謳歌した。

「春情指人形」(渓斎英泉・1838年ごろ)では、乳母から性の手ほどきを受ける若殿が、「開註年中行誌」(歌川芳虎・1834年ごろ)には、物干し台で花火を見ながら行為に及ぶ男女などが描かれている。春画では殿様や多くも題材となり、江戸時代、物干し台は隣人との出会いの場で恋が生まれることもあった。

 江戸期に日本を訪れた欧米人たちはさぞかし驚いたことだろう。17世紀末に来日したドイツ人医師のケンペルは売春宿の多さに驚愕し、幕末に駐日総領事を務めたアメリカ人ハリスは、「混浴」という文化に初めて触れ、裸で風呂に入る男女を見て卒倒したと伝えられる。

 それを単純に野蛮でみだらな風習と見るのは現代人の浅はかさである。浮世絵研究家の白倉敬彦氏は言う。

「江戸時代には性のタブーがありませんでした。売春や妾、夜這いの風習も認められていた。処女性も軽視され、性を楽しんだ結果、私生児が生まれたら養子に出せばいい、そういう社会的なコンセンサスが成立していたのです。牧歌的かつ野放図で悪びれることを知らない。そこにはセックスは自由で平等なものという考えが根付いていたのです」

 現代の日本における一般的な性の禁忌はキリスト教の教えに基づくものであり、明治維新を境に西洋から移入され、浸透した。現代の感覚からは想像できないほど、江戸期以前の日本人が自由に性生活を楽しみ、かつ平等で開かれた共生社会を築いていたことを春画は示している。

「春画は『笑絵』とも言われ、人々の空想や妄想をユーモラスに描き、笑いを誘う読み物でもありました。嫁入り道具として娘に持たせ、夫婦和合の性教育の教科書としても使われていました。また、火除けや虫除けの護符でもあった。目で楽しむ物であり、読み物であり、贈答品でもある。春画がただのポルノとは違うところです」(白倉氏)

■監修・白倉敬彦/取材協力・角田洋平

※SAPIO2013年2月号



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