芸能

「純と愛」敏腕脚本家の刺激的展開 毎朝見ると疲れるとの声

 NHKの朝ドラはその歴史、幅広い視聴者層、長期間に及ぶ放送からして独特の番組だ。それだけに制作側も“独特の演出”を求められるのだろうか。作家で五感生活研究所代表の山下柚実氏が指摘する。

 * * *
 NHK連続テレビ小説『純と愛』も残すところあと1/3。2か月を残すだけとなりました。視聴率は17~18%台と、低下することもなく一定の水準を保っています。いまだにお茶の間の関心を惹きつけ続けている、と言っていいでしょう。

 ラストへ向かっての「視聴率維持」の工夫の中に、ある問題が隠れている、と思うのは私だけでしょうか?

 最近のストーリーは、DV、立てこもり、離婚、失業、認知症。乳幼児を火傷させる。包丁をとり出して自殺未遂。とにかく刺激的でダークでエグいエピソードを狙っているのか、その連続です。

 一言で表せば、刺激、刺激、刺激。小さな人間集団の中に、次から次へと刺激物を投入する脚本家・遊川和彦氏。

 それによって、ハラハラドキドキさせて、視聴者を次に引っ張っていく。「お化け屋敷」手法と言えばいいでしょうか。

 でも、毎朝、刺激物を与えられている視聴者が、もはや心に疲れを感じていることに、脚本家はお気づきでしょうか。

 視聴者のこんな感想に、ハッとさせられました。

「不朽の名作がぼろぼろに捨てられ、投げられる。なぜこんな表面的で安直な演出しかできないのか」

 それは、投げやりになった父・善行が、そこにあった太宰治『人間失格』の文庫本を投げ捨てるシーン。ドラマのストーリーと『人間失格』の関係は何も描かれていない。ただ『人間失格』というタイトルだけを利用したかったのでしょう。が、この本に思い入れがある視聴者なら、ぞんざいに投げ捨てられるだけの素材扱いに、憤怒して当然でしょう。

 そうです。このシーンがまさしく象徴しています。

『人間失格』も、認知症も、自殺未遂も、引きこもりも、DVも。単に、物語を引っ張るための刺激的素材として使っているだけ。お化け屋敷の中で、次から次へと怖い仕掛けに出合うがごとくに。そんな風に感じてしまうから、見る側には疲労感や暗さやむなしさばかりが残る。

 お茶の間の一般庶民の暮らしの中に、認知症もDVも引きこもりも実際にある。そのひとつひとつの対処に、全エネルギーを注ぎ、毎日毎日格闘しながら何とか生きている人がいっぱいいる。だから、単なる刺激物として扱われることに敏感なのです。

 振り返れば、NHKの連続テレビ小説は50年以上続いてきた。その中で、「47都道府県すべて」がドラマの舞台となってきた歴史があります。それは、他の民放には無い「型」とも言えるでしょう。

 土地や時代、社会的広がりや背景を取り込み、風土の魅力、そこで暮らす人々の生き様、ふるさとの匂いや味わいをいきいきと立ち上がらせるという「型」です。

「朝ドラの型を壊す」宣言をした遊川氏。徹底してその「型」を無視して、閉塞した人間関係の中の刺激的でエグい出来事によってドラマを貫く意図かもしれません。

 問われるのは、こちら側です。あと2か月見続けることができるのかどうか。正直、自信がない。でも、最後に突然、希望的な展開になり善人ドラマになってしまっても、今さら受けいれられない。戸惑うばかりです。

関連キーワード

関連記事

トピックス

お仏壇のはせがわ2代目しあわせ少女の
《おててのシワとシワを合わせて、な~む~》当時5歳の少女本人が明かしたCM出演オーディションを受けた意外な理由、思春期には「“仏壇”というあだ名で冷やかされ…」
NEWSポストセブン
『サ道』作者・タナカカツキ氏が語る「日本のサウナ60年」と「ブームの変遷」とは
《「ととのった〜!」誕生秘話》『サ道』作者・タナカカツキ氏が語る「日本のサウナ60年」と「ブームの変遷」
NEWSポストセブン
広陵野球部・中井哲之監督
【広陵野球部・被害生徒の父親が告発】「その言葉に耐えられず自主退学を決めました」中井監督から投げかけられた“最もショックな言葉” 高校側は「事実であるとは把握しておりません」と回答
週刊ポスト
薬物で何度も刑務所の中に入った田代まさし氏(68)
《志村けんさんのアドバイスも…》覚醒剤で逮捕5回の田代まさし氏、師匠・志村さんの努力によぎった絶望と「薬に近づいた瞬間」
NEWSポストセブン
自宅で亡くなっているのが見つかった中山美穂さん
《ずっと若いママになりたかった》子ども好きだった中山美穂さん、元社長が明かした「反対押し切り意思貫いた結婚と愛息との別れ」
週刊ポスト
連敗中でも大谷翔平は4試合連続本塁打を放つなど打撃好調だが…(時事通信フォト)
大谷翔平が4試合連続HRもロバーツ監督が辛辣コメントの理由 ドジャース「地区2位転落」で補強敢行のパドレスと厳しい争いのなか「ここで手綱を締めたい狙い」との指摘
NEWSポストセブン
伊豆急下田駅に到着された両陛下と愛子さま(時事通信フォト)
《しゃがめってマジで!》“撮り鉄”たちが天皇皇后両陛下のお召し列車に殺到…駅構内は厳戒態勢に JR東日本「トラブルや混乱が発生したとの情報はありません」
NEWSポストセブン
事実上の戦力外となった前田健太(時事通信フォト)
《早穂夫人は広島への想いを投稿》前田健太投手、マイナー移籍にともない妻が現地視察「なかなか来ない場所なので」…夫婦がSNSで匂わせた「古巣への想い」
NEWSポストセブン
2023年ドラフト1位で広島に入団した常廣羽也斗(時事通信)
《1単位とれずに痛恨の再留年》広島カープ・常廣羽也斗投手、現在も青山学院大学に在学中…球団も事実認める「本人にとっては重要なキャリア」とコメント
NEWSポストセブン
芸能生活20周年を迎えたタレントの鈴木あきえさん
《チア時代に甲子園アルプス席で母校を応援》鈴木あきえ、芸能生活21年で“1度だけ引退を考えた過去”「グラビア撮影のたびに水着の面積がちっちゃくなって…」
NEWSポストセブン
異物混入が発覚した来来亭(HP/Xより)
《ラーメンにウジ虫混入騒動》体重減少、誹謗中傷、害虫対策の徹底…誠実な店主が吐露する営業再開までの苦難の40日間「『頑張ってね』という言葉すら怖く感じた」
NEWSポストセブン
暴力問題で甲子園出場を辞退した広陵高校の中井哲之監督と会見を開いた堀正和校長
【「便器なめろ」の暴言も】広陵「暴力問題」で被害生徒の父が初告白「求めるのは中井監督と堀校長の謝罪、再発防止策」 監督の「対外試合がなくなってもいいんか?」発言を否定しない学校側報告書の存在も 広陵は「そうしたやりとりはなかった」と回答
NEWSポストセブン