国内

NYタイムズ支局長「日本は3.11より大きな危機の必要あり」

 経済ではアベノミクス、外交では強気の対中姿勢で高い支持率を維持している安倍政権は、果たして世界にはどのように映っているのか。日本研究の第一人者であるK.V.ウォルフレン氏と、ニューヨーク・タイムズ東京支局長のM.ファクラー氏が初対談。「世界から見た安倍政権」の実態を語り合った。

ファクラー:自民党がもし、旧態依然のままなら、いつの選挙かわかりませんが、新たな政権に取って代わられることでしょう。国民は官僚システムを打破し、国民の中にある閉塞感を打ち破るものを望んでいる。

ウォルフレン:この前の選挙結果における投票数を見れば、自民党は第一党を占める議席数を獲得したが、実際の得票数は2009年選挙よりも少ない。これはつまり、2009年に民主党に投票した人々は、この前の選挙では自宅にいて投票しなかったということ。

 彼らは裏切られたと感じ、マニフェストで約束したことを履行しなかったと憤りを感じたんです。もちろん、自民党の圧勝を演出した新聞が、そうした事実を指摘することはなかった。反民主党の新聞にとっては願ってもないことですからね。

 それでも、自民党に入れたくもないし、投票したくもなかったため自宅にいた人が大勢存在するのは間違いありません。もし安倍政権が、日本の進むべき方向性について国民が納得できる形で示すことができなければ、この先、予測しがたいタイプの新たな政治家、政治グループが登場していくことになるでしょう。

ファクラー:維新の会がそれを担うのかもしれないし、そうでないかもしれない。ただ私は、日本は今後、この国の制度・システムに対する本当の危機が起こり、それに対処する形で変革せざるを得なくなるだろうと考えています。外的要因としては領土問題などを抱える中国、内部要因としては日本の財政危機でしょうか。

 その意味では、3.11の東日本大震災、福島原発事故でさえ日本にとって真の危機にはならなかったわけです。なぜなら、あれほどの災害でも東京電力はまだそこにあり、旧態依然とした“原子力ムラ”の体制、やり方に戻っていってしまっているのですから。

 官僚は原子力関係への天下りを温存し、学者は原子力業界からの研究資金を得続けて、メディアは原子力を推進する企業の広告をいまだに数多く扱っている。これでは変わりようがありません。日本のシステムを変革するには、ある意味で3.11より大きな危機に直面する必要があるのかもしれません。

ウォルフレン:官僚を中心とした権力構造が改革を妨げる。まさに私が指摘してきた「人間を幸福にしない日本というシステム」ですね。安倍氏も「戦後レジームからの脱却」を唱えながら、全くその思考から逃れられていません。

■カレル・ヴァン・ウォルフレン
 ジャーナリスト、アムステルダム大学名誉教授。1941年オランダ生まれ。1972年にオランダ『NRCハンデルスブラット』紙の東アジア特派員として来日以来、日本研究を続けている。近著に『いまだ人間を幸福にしない日本というシステム』(角川ソフィア文庫)など。

■マーティン・ファクラー
 ニューヨーク・タイムズ東京支局長。1966年米国生まれ。ブルームバーグ東京支局、AP通信社各支局を経てニューヨーク・タイムズ日本支局記者になり、2009年より現職。昨年、『「本当のこと」を伝えない日本の新聞』(双葉新書)がベストセラーになった。

※週刊ポスト2013年3月1日号

関連記事

トピックス

大谷と真美子さんを支える「絶対的味方」の存在とは
《ハワイ別荘・泥沼訴訟を深堀り》大谷翔平が真美子さんと娘をめぐって“許せなかった一線”…原告の日本人女性は「(大谷サイドが)不法に妨害した」と主張
NEWSポストセブン
世界的な人気を誇るシンガー・d4vd(20)(Instagramより)
「行方不明の10代少女のバラバラ遺体が袋詰めに」世界的人気歌手・d4vdが所有する高級車のトランクに遺棄《お揃いのタトゥー「 Shhh…」で発覚した2人の共通点》
NEWSポストセブン
須藤被告(左)と野崎さん(右)
《紀州のドン・ファンの遺言書》元妻が「約6億5000万円ゲット」の可能性…「ゴム手袋をつけて初夜」法廷で主張されていた野崎さんとの“異様な関係性”
NEWSポストセブン
神田正輝の卒業までに中丸の復帰は間に合うのか(右・Instagramより)
《神田正輝の番組卒業から1年》中丸雄一、『旅サラダ』降板発表前に見せた“不義理”に現場スタッフがおぼえた違和感
NEWSポストセブン
イギリス出身のボニー・ブルー(本人のインスタグラムより)
「タダで行為できます」騒動の金髪美女インフルエンサー(26)の“過激バスツアー”に批判殺到 大学フェミニスト協会は「企画に参加し、支持する全員に反対」
NEWSポストセブン
ラーメン店の厨房は暑い(イメージ)
《「汗を落とすな」「清潔感がない」》猛暑で増えた「汗クレーム」 熱湯で麺を茹で上げるラーメン店やエアコンが使えないエアコン取り付け工事にも
NEWSポストセブン
主人公・のぶ(今井美桜)の幼馴染・小川うさ子役を演じた志田彩良(写真提供/NHK)
【『あんぱん』秘話インタビュー】のぶの親友うさ子を演じた志田彩良が明かすヒロインオーディション「落ちた悔しさから泣いたのは初めて」
週刊ポスト
寮内の暴力事案は裁判沙汰に
《いまだ続く広陵野球部の暴力問題》加害生徒が被害生徒の保護者を名誉毀損で訴えた背景 同校は「対岸の火事」のような反応
週刊ポスト
どんな役柄でも見事に演じきることで定評がある芳根京子(2020年、映画『記憶屋』のイベント)
《ヘソ出し白Tで颯爽と》女優・芳根京子、乃木坂46のライブをお忍び鑑賞 ファンを虜にした「ライブ中の一幕」
NEWSポストセブン
俳優の松田翔太、妻でモデルの秋元梢(右/時事通信フォト)
《松田龍平、翔太兄弟夫婦がタイでバカンス目撃撮》秋元梢が甥っ子を優しく見守り…ファミリーが交流した「初のフォーショット」
NEWSポストセブン
佳子さまを撮影した動画がXで話題になっている(時事通信フォト)
《即完売》佳子さま、着用した2750円イヤリングのメーカーが当日の「トータルコーディネート」に感激
NEWSポストセブン
国連大学50周年記念式典に出席された天皇皇后両陛下(2025年9月18日、撮影/JMPA)
《国連大学50周年記念式典》皇后雅子さまが見せられたマスタードイエローの“サステナブルファッション” 沖縄ご訪問や園遊会でお召しの一着をお選びに 
NEWSポストセブン