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金融機関の現場 どうやって貸せばいいのかわからぬ人も存在

 バブル崩壊後、不良債権処理に追われた日本の金融機関は一斉に貸し渋りに走った。その結果、「企業にも個人にもカネを貸さない文化」が蔓延してしまった。 そして、バブル後入社世代が「貸し渋り体質」に染まっただけでなく、「イケイケ融資」時代を知る支店長クラスの権限も低下している。

 メガバンクの30代行員が目の当たりにした現実だ。

「私が入行した頃は支店長の権限は大きかった。ところが先日、業績が好転し始めた企業に5000万円の融資をしてくれるよう決裁を支店長にお願いしたところ、『本部決裁に回す』とだけいわれた。

 それから1か月も音沙汰なしなので、『あの件、どうなりましたか?』と聞くと、『今、副頭取の決裁待ちだ』といわれたんです。昔なら支店長決裁の金額ですよ。だけど、本部に回って、本部の課長から部長、担当役員、さらには副頭取まで上げても、結局、否認されました。何も銀行の命運をかけるほどの金額でもないのに……」

 金融機関の現場で取材を重ねても、出てくる言葉は「貸したくても貸せない」「マニュアルに従うと、どうやって貸せばいいのかわからない」ばかりだった。

 たとえ貸せるとしても、その対象は「預金残高が多い人」「上場企業の管理職など信用力の高い人」といった、そもそもお金に困っていない人たちだ。「正直にいえば、自社クレジットカードのプラチナカード対象者だけが顧客であり、銀行はそのような富裕層のために存在している。貧乏人は預金を集める手段に過ぎない」という本音まで聞かれた。

 こうした体質について、国際金融のトップも懸念を表明している。IMF(国際通貨基金)のラガルド専務理事は4月7日に中国で開かれたフォーラムで、日銀が打ち出した金融緩和策について「銀行から企業への融資が増えなければ政策の効果には限界がある」と釘を刺した。

 いくら日銀が「異次元の金融緩和」と声高に叫んでも、肝心の金融機関がこの状態のままでは絵に描いた餅になってしまう。

 それは歴史が証明している。アベノミクスによって市場に出回る金が増えたと思われがちだが、実は違う。バブル崩壊後、特に2001年からの量的金融緩和で日銀の資金供給量は増加しているのだ。

 だが、銀行融資などで市中に出回る貸出残高は減少後に横ばいを続けている。それもこれも銀行が蛇口を締め続けてきた結果である。極度にリスクを恐れて国債ばかりを買いまくり、結局は「日銀が刷りまくったカネが銀行に眠っているだけ」だったのである。

 金融機関とは読んで字の如く、「金を融通する機関」のはずだ。「貸せない金融機関」から脱皮できないようなら、いっそ銀行免許を返上したほうがいいだろう。

※週刊ポスト2013年4月26日号

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