明治、大正、昭和と日本が大きく様変わりする時代を生きた香淳皇后(写真/共同通信社)
昭和天皇とともに激動の時代を生きた香淳皇后の誕生から崩御後までを記した『香淳皇后実録』が公開された。本文全12巻、歴代皇后の実録として最長の3800ページを超える一大記録だが、そこには“ある重大な記述”が見当たらない──。
『香淳皇后実録』公開の意義について、象徴天皇制に詳しい河西秀哉・名古屋大学准教授(日本近現代史)はこう言う。
「香淳皇后は明治、大正、昭和とこの国が大きく様変わりする時代を生き、その間、天皇の位は大元帥から象徴に変わりました。今回の実録は、近代日本の歩みを皇后の立場から読むことができる貴重なものです」
編纂に際しては宮内庁に残る公文書や女官の日誌など、皇后に関する資料が集められた。
河西氏が注目したのは、「戦中」の記述だという。
「今まで知られていなかった軍人たちとのエピソードです。実録では戦中の記述が分厚く、皇后が傷ついた兵士に包帯や義眼・義肢を与えたとの記述が多い。戦中の皇后の姿がよくわかりました」
象徴天皇制に詳しい龍谷大学教授の瀬畑源氏(日本政治史)はこう言う。
「特徴的なのは、香淳皇后が秩父宮妃や高松宮妃などの皇族、実家の久邇宮家の関係者と頻繁に会っていたこと、音楽好きで皇居に演奏家を招いてコンサートをよく開いていたことなどが記されていたことです。普段の人付き合いは身内にほぼ限られていたようです」
一方、「肉声」が少ないとの指摘もある。
「2014年に完成した『昭和天皇実録』にはところどころ肉声が出てきますが、香淳皇后の実録には肉声がほとんどありません。また、個人的に記述が薄いと感じたのは、上皇后・美智子さまとの関係です」(河西氏)