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企業による恋チュン動画投稿 「人材育成効果も」と経済評論家

 AKB48のヒット曲『恋するフォーチュンクッキー』に合わせて踊る動画がネット上で大ブームとなっているが、個人だけではなく企業や地方自治体が積極的に参加しているのがこの現象の特徴だ。彼らはただブームに乗っただけではないはずだ。企業や地方自治体が恋チュン動画を投稿する狙いはどこにあるのだろうか?

 指原莉乃の初センター曲として初登場チャート1位になったこの曲。わかりやすくてキュートな振りつけがうけ、動画サイトにダンスをする姿を投稿するファンが増えていった。その後、YouTubeの「AKB48公式チャンネル」では、企業や地方自治体も参加し、それぞれの従業員らがダンスを踊る動画が相次いで投稿された。現在、神奈川県、佐賀県といった地方自治体から、企業ならサイバーエージェント、サマンサタバサグループ、ジャパネットたかた、タクシーの日本交通まで、あらゆるジャンルの団体が参加している。

 神奈川県庁の担当者によると、黒岩祐治知事がAKB48の関係者から企画を持ちかけられたことから制作が決まったという。制作費は約43万円で、県と県の観光協会が負担した。撮影は県側が行ったが、動画の編集はAKB48サイドに依頼したという。

 ほかの団体も、必ずしも自らAKB48サイドに参加を働きかけたわけではないようだが、いずれも参加することのメリットを考えて参加を決めたのは言うまでもない。

 経済評論家の平野和之氏は、経営的な視点から「誰もが知っている人気アイドルであるAKB48の知名度によって、自分たち企業や自治体のブランド力を上げようという狙いなら目新しさはないが、この戦略は別次元」と指摘する。

「企業や商品をPRするための戦略として、インターネットなどを利用したバズマーケティングという手法があります。いわゆる口コミです。ところが、飲食系の口コミサイトで発覚したやらせ広告などによって、口コミ自体の信用性が低くなってきた。そうしたこともあって、スポンサーサイドとしては近年、企業や商品をPRするためには、まず、透明性、信頼性を高めることを戦略の主眼にするようにし、基本は自前で、かつ、スタッフの見える化がその証明を図れる手法であると考えています。

 そして、スタッフを参加させる目的のもうひとつが身近さ、親近感の提供と共有にあります。最近のバズマーケティングでは、その企業や商品を売ることを目的に置くのではなく、公益性、公共性に主眼を置き、幅広く参加し、その内容を共有し、多くの人に拡散してもらう。その商品と企業と関係ないサービスを提供することによって、結果として高い広告効果をあげる手法が増えています。

 日本交通も、サマンサタバサも直接、AKB48や曲と関係している企業ではないですよね。この点では、AKB48など、最近のアイドルユニットが、身近な存在で親近感があることも、そのイメージを共有してもらう上でもわかりやすいということでしょう。『恋するフォーチュンクッキー』が流れたときに、サマンサタバサ、サイバーエージェント、日本交通、神奈川県、佐賀県=AKB48、というように頭の中で“身近”というイメージを一致させる効果が生まれています。バズマーケティングとしては、今後の王道といえる戦略です」(平野氏)

 動画の再生回数はサマンサタバサが430万回、サイバーエージェントが310万回、ジャパネットたかたは170万回、日本交通は120万回を超えている。地方自治体では、神奈川県バージョンは250万回を突破した。「いずれも極めて高い広告効果があったと言えます」(平野氏)。

 さらに人材育成の効果も見込める、と平野氏は指摘する。

「これは、企業自体のスタッフのモチベーションの上昇、想像力を高めるきっかけにもなり、企業の人材活力の上昇にも寄与します。むしろこれらの人材育成予算で見た場合には、お金には換えられない効果もあったといえます。特に自治体の職員はまじめ一徹でイノベーションが起こりにくい環境ですから、佐賀県はITイノベーション、住民自治イノベーションなど先駆的な取り組みもしており、神奈川県のイノベーションなども起これば、面白いのではないでしょうか」(平野氏)

 また、企業や自治体のトップも自ら踊っているが、「外国のトップが使う戦略に似ている」と言うのは新潟青陵大学教授の碓井真史氏だ。

「アメリカでは大統領が自ら出演するジョークのビデオを作ったりしていますし、イギリスではロンドン五輪の開会式で、ジェームズ・ボンドとエリザベス女王が共演したりもしましたよね。海外ではこういうことをやっても、大統領や王族の権威が落ちることはありません。むしろユーモアセンスがある人ということで親しみも高まり、イメージがアップしていきます。もちろん、彼らはそうしたことをわかった上で、やっているわけです。『恋するフォーチュンクッキー』の動画投稿においてもトップ自らが出演したことで、彼ら個人だけではなく、その団体のイメージが高まる効果が生まれています」(碓井氏)

 彼らはただ踊っているだけではない。さまざまな戦略が隠されていたのだ。

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