こういっても韓国人は信じないだろうが、新渡戸稲造の『偉人群像』には、伊藤が語った言葉としてこう記されている。
「君、朝鮮人はえらいよ。この国の歴史を見ても、その進歩したことは、日本より遥か以上であった時代もある。この民族にしてこれしきの国を自ら経営できない理由はない。才能においては決してお互いに劣ることはないのだ」
このように、伊藤は朝鮮人を高く評価し、併合には反対だと主張していた。安は大日本帝国を代表する存在である伊藤を排除すれば、明治天皇の善意により、韓国は救われると考えた。
そして、日清韓の連帯を唱え、日韓併合に反対していた伊藤を暗殺してしまったために、その後、山県有朋の主導により日韓は併合への道を突き進むことになった。残念ながら、これが現実である。
「安は逮捕され、検察官の尋問を受けたとき、『これで日本の協力のもとで韓国は独立できる』と供述しています。その後、旅順監獄に収監されてから、自分の考えが甘く、時代認識に欠けていたことを反省している。しかし、明治天皇は東洋の平和と韓国の独立を願っていると最後まで信じ続けていた」(前出・斎藤氏)
まさか自分の犯した行為が、意図とはまったく逆の方向に進む引き金になるとは、安重根も思いも寄らなかったに違いない。
※週刊ポスト2014年4月25日号