香港一の大富豪、李嘉誠氏がトップを務める2つの中核企業、不動産大手の長江実業集団と大型複合企業ハチソンワンポア(和記黄埔)を合併し、グループを大幅に再編することを決めた。これにともない、新会社の本社の登記地をこれまでの香港からカリブ海上のタックスヘイブンであるケイマン諸島に移すことも明らかにした。
李氏は昨年、グループが中国大陸に投資したショッピングモールなど不動産物件をすべて売り抜け、700億香港ドルの資産を手にするなど、大陸からの脱出を図っている。さらに再編した新グループの登記地変更で、大陸からの圧力が強まっている香港を嫌い、ビジネス拠点を欧米に移す狙いがあるとの観測が強まっている。
李氏は1月上旬、記者会見し、グループの大幅再編と登記地の変更を明らかにした。これについて、記者から「これは香港(でのビジネス)に自信が持てなくなったということか」との質問が飛ぶと、李氏は「国際的な趨勢に倣っただけだ」と一言ポツリ。
説明不足との思ったのか、李氏は「(李氏自身が)ある一定の年齢に達したことで、後継者と、グループの多くの重役や幹部が経営をしやすくする環境を整える必要があるからだ」と補足説明した。また、ケイマン諸島は企業家にとって法律の運用や解釈が柔軟で、ビジネス展開が容易だなどとも付け加えた。
李氏は2012年5月、自らの後継者に長男の李沢鉅(ビクター・リー)氏を指名しており、今回のグループ再編や登記地の変更などは沢鉅氏へのビジネスの引き継ぎを円滑に行なう目的があることを明らかにした形だ。
しかし、香港では大部分の人々が李氏の言葉を額面通り受け取っていないようで、翌日の新聞の1面には「奔香投欧」(香港を出て、欧州に投資する)というフレーズが大見出しで踊った。
これは、すでに李氏が中国大陸での資産のほとんどを手放したほか、昨年末までずれ込んだ香港の民主化運動への中国政府の対応について、李氏がしばしば批判的なコメントを述べていたからだ。
中国系香港紙「大公報」によると、李氏は中国政府が普通選挙を求めて民主派学生らが起こした民主化運動を弾圧する姿勢を示したことについて、「香港で普通選挙が行なわれなければ、すべての香港人が損をすることになる」と警告していたからだ。
李氏はロンドンでの超高層マンション建設計画や欧州各国やカナダでの不動産開発プロジェクトに取り組んでいると伝えられるだけに、昨年末に民主化運動が失敗に終わったことを一つのタイミングとみて、今回の決断に至ったのではないかとの見方が香港では一般的だ。
ちなみに、米経済誌「フォーブス」が1月初旬に発表した2015年版の香港の長者番付によると、李氏が総資産335億米ドル(約4兆円)と、17年連続で首位の座を維持している。