国内

外務省関係者 後藤健二氏めぐりISと解放交渉を行なっていた

 1月20日、イスラム国(IS)は拘束しているジャーナリスト・後藤健二氏と民間軍事会社代表・湯川遥菜氏の殺害予告ビデオをネットに公開。日本政府に対し、72時間以内に2億ドルの身代金を支払うことを要求した(24日には湯川氏が殺害されたとする映像が公開された)。

 湯川氏がイスラム国に拘束されたことが明らかになったのは昨年8月、後藤氏についても政府は昨年11月の時点で拘束されたという情報を掴んでいた。これまでの数か月でできることは山のようにあったはずである。

 たしかに何もしなかったわけではなかった。後藤氏がシリアに向けて日本を出国したのは昨年10月22日。後藤氏の妻の携帯電話に約10億円の身代金を要求するメールがあったのは昨年11月初旬だった。本誌は11月中旬にいち早く、「後藤氏失踪」の情報を入手し、取材に動いた。当時、外務省関係者に接触すると、身代金交渉を行なっていることをはっきりと認めた。

「後藤さんがイスラム国を名乗る武装集団に拘束されているのは間違いない。現地には身代金目的の小規模な集団も多く、本当にイスラム国なのかどうかはまだ確認が取れないが、いずれにせよ、現在、現地のあるシリア人を仲介役に解放交渉中だ。ただし、武装集団は『後藤の名前を公表すれば首を切り落とす』といってきている。人命のために報道しないでほしい」

 本誌は「生命に危険が及ぶ可能性がある」という判断で取材を続けながら記事化を見送ってきたが、その後11月下旬になると、本誌に続いて民放キー局の1社もこの情報を掴み、報道する構えをみせた。

 本誌は引き続き人命優先で報道を控えることとしつつも、情報が公になった場合に備えて昨年12月1日、外務省に公式に事実確認を求めた。邦人テロ対策室の担当者はこう回答した。

「人命に関わる特殊な事案であるため、こうしたケースでは事実関係の有無を含めて対外的に話すことはないというのが当省の方針だ」

 そして今回の最悪の事態に至った。なぜ交渉はまとまらなかったのか。前出の外務省関係者によれば、イスラム国を名乗る集団は当初、後藤氏1人について身代金を要求してきた。ところが、交渉が長引くと、途中から条件が変わったという。

「交渉窓口が別のチャンネルになり、途中から『湯川さんを含めた2人を一緒でなければ返さない』というメッセージが届き、身代金を大きく吊り上げてきた。2人一緒の交渉になれば、たとえ身代金を払ったとしても1人しか返さない可能性が高くなるなど、交渉は相手が断然有利になり、暗礁に乗り上げた」

 要は足元を見られて失敗したのだ。そもそも外務省は誰一人、現地に入り込んで邦人救出に動いておらず、外国の仲介者に任せていたのだから、その本気度は疑わしい。

※週刊ポスト2015年2月6日号

関連キーワード

関連記事

トピックス

田中圭
《田中圭が永野芽郁を招き入れた“別宅”》奥さんや子どもに迷惑かけられない…深酒後は元タレント妻に配慮して自宅回避の“家庭事情”
NEWSポストセブン
田村瑠奈被告(中央)
《父・修被告よりわずかに軽い判決》母・浩子被告が浮かべていた“アルカイックスマイル”…札幌地裁は「執行猶予が妥当」【ススキノ事件公判】
NEWSポストセブン
ラッパーとして活動する時期も(YouTubeより。現在は削除済み)
《川崎ストーカー死体遺棄事件》警察の対応に高まる批判 Googleマップに「臨港クズ警察署」、署の前で抗議の声があがり、機動隊が待機する事態に
NEWSポストセブン
ニセコアンヌプリは世界的なスキー場のある山としても知られている(時事通信フォト)
《じわじわ広がる中国バブル崩壊》建設費用踏み倒し、訪日観光客大量キャンセルに「泣くしかない」人たち「日本の話なんかどうでもいいと言われて唖然とした」
NEWSポストセブン
北海道札幌市にある建設会社「花井組」SNSでは社長が従業員に暴力を振るう動画が拡散されている(HPより、現在は削除済み)
《暴力動画拡散の花井組》 上半身裸で入れ墨を見せつけ、アウトロー漫画のLINEスタンプ…元従業員が明かした「ヤクザに強烈な憧れがある」 加害社長の素顔
NEWSポストセブン
筑波大学の入学式に出席された悠仁さま(撮影/JMPA)
悠仁さま入学から1か月、筑波大学で起こった変化 「棟に入るには学生証の提示」、出入りする関係業者にも「名札の装着、華美な服装は避けるよう指示」との証言
週刊ポスト
藤井聡太名人(時事通信フォト)
藤井聡太七冠が名人戦第2局で「AI評価値99%」から詰み筋ではない“守りの一手”を指した理由とは
NEWSポストセブン
趣里と父親である水谷豊
《趣里が結婚発表へ》父の水谷豊は“一切干渉しない”スタンス、愛情溢れる娘と設立した「新会社」の存在
NEWSポストセブン
米利休氏のTikTok「保証年収15万円」
東大卒でも〈年収15万円〉…廃業寸前ギリギリ米農家のリアルとは《寄せられた「月収ではなくて?」「もっとマシなウソをつけ」の声に反論》
NEWSポストセブン
SNS上で「ドバイ案件」が大騒動になっている(時事通信フォト)
《ドバイ“ヤギ案件”騒動の背景》美女や関係者が証言する「砂漠のテントで女性10人と性的パーティー」「5万米ドルで歯を抜かれたり、殴られたり」
NEWSポストセブン
“赤西軍団”と呼ばれる同年代グループ(2024年10月撮影)
《赤西仁と広瀬アリスの交際》2人を結びつけた“軍団”の結束「飲み友の山田孝之、松本潤が共通の知人」出会って3か月でペアリングの意気投合ぶり
NEWSポストセブン
田村容疑者のSNSのカバー画像
《目玉が入ったビンへの言葉がカギに》田村瑠奈の母・浩子被告、眼球見せられ「すごいね。」に有罪判決、裁判長が諭した“母親としての在り方”【ススキノ事件公判】
NEWSポストセブン