国内

イスラム国人質事件 集団的自衛権を持ち出す議論はこじつけ

「イスラム国」による邦人人質事件に関し、新聞やテレビは、これほどの異常事態でも、「発言しそうな人に発言しそうなことを言わせる」いつもの調子に終始していた。

〈集団的自衛権行使の問題も含め、中東関与のあり方を再検討する局面に来た。日米同盟の名の下に中東まで踏み込む「積極的平和主義」を続けるなら、テロ勢力を敵に回す可能性も増す。政権も国民も、本当にその覚悟があるのかが問われている〉

 イスラム国による日本人人質殺害が予告された翌々日の朝日新聞1月22日付オピニオン欄に掲載された、臼杵陽・日本女子大学教授のコメントである。

 同様の意見は、安倍政権の外交・安全保障政策に批判的なメディアや識者の間で相次いだ。まるで鬼の首を取ったかのように、「安倍のせいで人質が死んだのだから、タカ派路線をやめろ」と迫っている。

 事件と政策論を直結させるこうした風潮に異を唱えたのが、イスラム研究者の池内恵・東京大学准教授だ。

〈「テロはやられる側が悪い」「政府の政策によってテロが起これば政府の責任だ」という、日本社会で生じてきがちな言論は、テロに加担するものであり、そのような社会の中の脆弱な部分を刺激することがテロの目的そのものです。(中略)「特定の勢力の気分を害する政策をやればテロが起こるからやめろ」という議論が成り立つなら、民主政治も主権国家も成り立たない。ただ剥き出しの暴力を行使するものの意が通る社会になる〉(池内准教授のブログより)

 正論である。テロに屈して国家が政策を変えたりすれば、それこそ日本が国際社会から脱落することになるだろう。そもそも、イスラム国側は人質事件の理由として、「集団的自衛権」など一言も触れていない。彼らが「口実」にすら使っていない政策を問題にするのは、人質事件を自分たちの政治信条に利用するこじつけにしか見えない。

 だが反対に、「このような事件を防ぐには、憲法改正しかない」という議論が高まることにも違和感がある。もちろん、憲法改正論議は大いに活発化すべきだが、それはあくまでこの国の歴史と未来のために大きな視野で議論されるべきであって、この事件から一足飛びに結びつけられるべきものではない。

 つまり、「テロがあったから集団的自衛権の行使をやめよう」も、「テロがあったから憲法を改正しよう」も、この事件を政治利用しようとする点では同質なのだ。

※SAPIO2015年3月号

関連記事

トピックス

二宮和也が『光る君へ』で大河ドラマ初出演へ
《独立後相次ぐオファー》二宮和也が『光る君へ』で大河ドラマ初出演へ 「終盤に出てくる重要な役」か
女性セブン
海外向けビジネスでは契約書とにらめっこの日々だという
フジ元アナ・秋元優里氏、竹林騒動から6年を経て再婚 現在はビジネス推進局で海外担当、お相手は総合商社の幹部クラス
女性セブン
今回のドラマは篠原涼子にとっても正念場だという(時事通信フォト)
【代表作が10年近く出ていない】篠原涼子、新ドラマ『イップス』の現場は和気藹々でも心中は…評価次第では今後のオファーに影響も
週刊ポスト
真剣交際していることがわかった斉藤ちはると姫野和樹(各写真は本人のインスタグラムより)
《匂わせインスタ連続投稿》テレ朝・斎藤ちはるアナ、“姫野和樹となら世間に知られてもいい”の真剣愛「彼のレクサス運転」「お揃いヴィトンのブレスレット」
NEWSポストセブン
交際中のテレ朝斎藤アナとラグビー日本代表姫野選手
《名古屋お泊りデート写真》テレ朝・斎藤ちはるアナが乗り込んだラグビー姫野和樹の愛車助手席「無防備なジャージ姿のお忍び愛」
NEWSポストセブン
破局した大倉忠義と広瀬アリス
《スクープ》広瀬アリスと大倉忠義が破局!2年交際も「仕事が順調すぎて」すれ違い、アリスはすでに引っ越し
女性セブン
大谷の妻・真美子さん(写真:西村尚己/アフロスポーツ)と水原一平容疑者(時事通信)
《水原一平ショックの影響》大谷翔平 真美子さんのポニーテール観戦で見えた「私も一緒に戦うという覚悟」と夫婦の結束
NEWSポストセブン
中国「抗日作品」多数出演の井上朋子さん
中国「抗日作品」多数出演の日本人女優・井上朋子さん告白 現地の芸能界は「強烈な縁故社会」女優が事務所社長に露骨な誘いも
NEWSポストセブン
【全文公開】中森明菜が活動再開 実兄が告白「病床の父の状況を伝えたい」「独立した今なら話ができるかも」、再会を願う家族の切実な思い
【全文公開】中森明菜が活動再開 実兄が告白「病床の父の状況を伝えたい」「独立した今なら話ができるかも」、再会を願う家族の切実な思い
女性セブン
大谷翔平と妻の真美子さん(時事通信フォト、ドジャースのインスタグラムより)
《真美子さんの献身》大谷翔平が進めていた「水原離れ」 描いていた“新生活”と変化したファッションセンス
NEWSポストセブン
国が認めた初めての“女ヤクザ”西村まこさん
犬の糞を焼きそばパンに…悪魔の子と呼ばれた少女時代 裏社会史上初の女暴力団員が350万円で売りつけた女性の末路【ヤクザ博士インタビュー】
NEWSポストセブン
韓国2泊3日プチ整形&エステ旅をレポート
【韓国2泊3日プチ整形&エステ旅】54才主婦が体験「たるみ、しわ、ほうれい線」肌トラブルは解消されたのか
女性セブン