相撲協会と白鵬氏の緊張関係は新たなステージに突入
大盛況のうちに幕を閉じた大相撲ロンドン公演。相撲協会は今後も相撲文化を世界に発信すると意気込む。「相撲を世界に」とは、6月に協会を去った元横綱・白鵬翔氏もまさに口にする言葉だが、今回の海外公演により、両者の考えの隔たりも浮き彫りになった。
本場所のような迫力に欠けた取組
普段は演劇やコンサートが開かれる英国・ロンドンの劇場「ロイヤル・アルバート・ホール」で5日間にわたり、土俵が設置され、現地のファンは力士に拍手喝采――34年ぶりとなるロンドン公演は約2万7000人を動員して大盛況となった。半世紀以上にわたり大相撲中継を担当した元NHKアナウンサーで相撲ジャーナリストの杉山邦博氏が言う。
「大相撲の海外公演は相手国から正式な招待を受けて相撲協会が主催し、国際文化交流の一環として行なわれるもので、公的な意味合いが強い。勧進元が主催することで私的な興行となる国内または海外の“巡業”とは区別されています」
海外公演には相撲を通じた文化交流や友好親善の目的があり、力士は“裸の大使”と呼ばれる。
「ホール内には『満員御礼』の垂れ幕が下がり、会場周辺には幟が並んだ。本場所の雰囲気を十分に伝えることができたのでは。取組は公共放送BBCで生中継されました」
協会関係者はそう満足げに語った。だが、現地での力士たちの取組内容は、普段の本場所を見る人からすれば迫力に欠けるものだったと言わざるを得ない。
「勝ち負けにこだわらない巡業のようなもので、怪我をしないよう全員が手を抜く。本場所では当たり前の張り手や、喉元への突っ張りもない。投げ技はよく見えるように土俵の真ん中でやり、投げられるほうも自分から転ぶので鮮やかに技が決まる。本場所のガチンコ相撲のように両者が技をかけて土俵下にもつれながら落ちるような取組はありません」(元力士)
千秋楽結びの一番は東西の横綱である大の里と豊昇龍が全勝で相星決戦。互いに土俵際へ追い詰め合ったあとに、先輩横綱である豊昇龍が送り出しで優勝を決めた。
「現地では単なる肉体の戦いではなく“神道の信仰と結びついたもの”として理解された。公演前に安全を祈る恒例の『土俵祭』も行なわれるなど、土俵は“神聖な儀式の場”として捉えられていました」(担当記者)
来年6月にはパリ公演が予定され、相撲協会は今後も「儀式・伝統文化としての相撲」の世界への発信に注力する方針だ。
そうした相撲協会の路線と協会を去った白鵬氏の方針は違って見える。
