ライフ

【書評】グローバル化したからこそ「個人」が問われるが……

【書評】『インターネットが普及したら、 ぼくたちが原始人に戻っちゃったわけ』小林弘人、柳瀬博一著/晶文社/1500円+税

【評者】香山リカ(精神科医)

 ウェブのマイメディア化。ノン・パッケージになってリキッド化するコンテンツ。カギはキュレーションメディア攻略……。カタカナ用語の洪水にアレルギー反応を起こすなかれ。語っているふたりはほぼ50歳、雑誌や本の出版にも携わってきた人たちだ。彼らの話すことが私にわからないはずはない、そう信じて親切な脚注を頼りに読み進めると、おぼろげながら「ネット時代のビジネスモデル」が見えてくる。そんな本だ。

 そもそもこのタイトルはどういう意味だ、と思う人のために本文から引用しよう。

「インターネットやデバイスの普及で世界中がつながった。グローバリゼーションが進展し、バーチャルな世界での情報のやりとりが活発化した。そうしたら、むしろ、ものすごく属人的で徹底的にリアルな『村』や『部族』のようなコミュニケーションの世界が待ちかまえていた。」

 つまり、誰もが濃密な情報の受け手にして送り手になれるこの時代、今までのように大企業やマスコミによる「みなさーん」というざっくりした呼びかけは誰にも届かなくなり、広告からもの作りまでがお互いの顔の見える「やりとり」になった、ということだ。「開発者とユーザーが意見交換しながら一緒に麦わら帽子を作り上げた」など本書にはその例がいくつも紹介されている。

 すべてが消費者とのやりとりで作られるわけでない。大切になるのは、クリエイターの「属人的な妄想力」。大企業も「顔の見えない組織」ではダメで、従業員全員が「現場を持って属人的に仕事をする」という体制が必要、「『原始人』の蛮行に賭けられない組織に、明日はない」とふたりの話はとどまるところを知らない。

 そうか、世の中がグローバル化したからこそ、これからはビジネスやメディアの世界でも個人が問われる、というわけか。「昨日までのやり方が全部通用しなくなる」という本書の主張にワクワクできるか、それともウンザリか。私は、正直言って後者寄り。ああ、定年がそう遠くなくてよかったな。

※週刊ポスト2015年3月20日号

関連記事

トピックス

愛子さま(写真/共同通信社)
《中国とASEAN諸国との関係に楔を打つ第一歩》愛子さま、初の海外公務「ラオス訪問」に秘められていた外交戦略
週刊ポスト
「アスレジャー」の服装でディズニーワールドを訪れた女性が物議に(時事通信フォト、TikTokより)
《米・ディズニーではトラブルに》公共の場で“タイトなレギンス”を普段使いする女性に賛否…“なぜ局部の形が丸見えな服を着るのか” 米セレブを中心にトレンド化する「アスレジャー」とは
NEWSポストセブン
「高市答弁」に関する大新聞の報じ方に疑問の声が噴出(時事通信フォト)
《消された「認定なら武力行使も」の文字》朝日新聞が高市首相答弁報道を“しれっと修正”疑惑 日中問題の火種になっても訂正記事を出さない姿勢に疑問噴出
週刊ポスト
地元コーヒーイベントで伊東市前市長・田久保真紀氏は何をしていたのか(時事通信フォト)
《シークレットゲストとして登場》伊東市前市長・田久保真紀氏、市長選出馬表明直後に地元コーヒーイベントで「田久保まきオリジナルブレンド」を“手売り”の思惑
週刊ポスト
ラオスへの公式訪問を終えた愛子さま(2025年11月、ラオス。撮影/横田紋子)
《愛子さまがラオスを訪問》熱心なご準備の成果が発揮された、国家主席への“とっさの回答” 自然体で飾らぬ姿は現地の人々の感動を呼んだ 
女性セブン
26日午後、香港の高層集合住宅で火災が発生した(時事通信フォト)
《日本のタワマンは大丈夫か?》香港・高層マンション大規模火災で80人超が死亡、住民からあがっていた「タバコの不始末」懸念する声【日本での発生リスクを専門家が解説】
NEWSポストセブン
東京デフリンピックの水泳競技を観戦された天皇皇后両陛下と長女・愛子さま(2025年11月25日、撮影/JMPA)
《手話で応援も》天皇ご一家の観戦コーデ 雅子さまはワインレッド、愛子さまはペールピンク 定番カラーでも統一感がある理由
NEWSポストセブン
山上徹也被告(共同通信社)
「金の無心をする時にのみ連絡」「断ると腕にしがみついて…」山上徹也被告の妹が証言した“母へのリアルな感情”と“家庭への絶望”【安倍元首相銃撃事件・公判】
NEWSポストセブン
被害者の女性と”関係のもつれ”があったのか...
《赤坂ライブハウス殺人未遂》「長男としてのプレッシャーもあったのかも」陸上自衛官・大津陽一郎容疑者の “恵まれた生育環境”、不倫が信じられない「家族仲のよさ」
NEWSポストセブン
11月24日0時半ごろ、東京都足立区梅島の国道でひき逃げ事故が発生した(読者提供)
《足立暴走男の母親が涙の謝罪》「医師から運転を止められていた」母が語った“事件の背景\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\"とは
NEWSポストセブン
大谷翔平が次のWBC出場へ 真美子さんの帰国は実現するのか(左・時事通信フォト)
《大谷翔平選手交えたLINEグループでやりとりも》真美子さん、産後対面できていないラガーマン兄は九州に…日本帰国のタイミングは
NEWSポストセブン
「週刊ポスト」本日発売! 習近平をつけ上がらせた「12人の媚中政治家」ほか
「週刊ポスト」本日発売! 習近平をつけ上がらせた「12人の媚中政治家」ほか
NEWSポストセブン