先輩役の料理人・荒木(黒田大輔)が目玉を剥いて、下っ端たちを殴る蹴る。「荒木ムカつく」とネットで話題になったほど。視聴者を胸くそ悪い気分にさせるくらいのド迫力は、つまりは手を抜かない演技力。荒木の無謀をきちんと描けば描くほど、下っ端3人のキャラクターが際立ってくる。
そして全体を黙って見回すのが、華族会館料理長・宇佐美鎌市。これまたドンぴしゃ、はまり役の小林薫。眉間に皺を寄せ、静かに「料理長」の威厳を湛えている。最後に、主人公・篤蔵を「おまえはクビだ」とバサっと切って捨てるドラマツルギー。
もちろん主人公の兄役・鈴木亮平の演技は言うに及ばず。肺病に苦しみ未来を断念していく青年を、ドラマの中で生き抜いている。20キロ減量したという姿が真に迫る。病弱な兄が夢を断念すればするほど、弟へ託す未来の意味が大きく膨らんでいく。そんな秀逸なドラマの構造になっています。
つまり、『天皇の料理番』というドラマは、「フィクションの世界をこう描いて見せてほしい」「こんな風に人間と時代を描いて欲しい」という視聴者の思いに的確に応えている。
民放ドラマがここまで見事にやれるのです。毎朝、数千万人の人が視聴する公共放送・NHKの朝ドラの脚本・演出はどうなのか? 『まれ』の制作陣はキャラクターの人物造形の破綻ぶり、矛盾をいち早く改修すべく、ここから学んで欲しいものです。