国内

未だ根強い「母乳信仰」 途上国向けのガイドラインが背景に 

 ネットで販売されている冷凍母乳に人工母乳が混入されていたり、衛生面で危険であったりする報道がなされた。この裏には、我が子は母乳で育てなければいけないという根強い「母乳信仰」がある。

 このような母乳信仰により、赤ちゃんも危険にさらされている。

 ベテラン産科医で『カンガルーケアと完全母乳で赤ちゃんが危ない』(小学館)の著者である久保田史郎医師(久保田産婦人科麻酔科医院院長)が警鐘を鳴らす。

「母乳が赤ちゃんにとって素晴らしい栄養源であるのは間違いありませんが、実は、ほとんどの母親は出産直後は乳首ににじむくらいしか母乳が出ません。体重3000gの新生児なら1日あたり最低でも約220mlの栄養が必要ですが、どんなに母乳の出がよい母親でも、必要な量の母乳が出始めるまでは1週間くらいかかるのが一般的です。

 それなのに、完母主義(完全母乳主義)をとる病院や助産院では、母親に『赤ちゃんは3日分の弁当と水筒(栄養と水分)を持って生まれてくるから、母乳が出なくても大丈夫。頑張ってお乳を含ませてください』と説明して、必要な糖水や人工乳を一切与えようとしないケースが多い。

 その結果、日本の赤ちゃんは出生直後から飢餓状態に置かれ、脳に障害を遺す危険がある重症黄疸や脱水、低血糖状態のリスクが高まっています。生後3週間で赤ちゃんの体重が10~15%減っても大丈夫としている病院もありますが、そんなに体重が減った赤ちゃんは母乳が足りずに飢餓状態と考えた方がいいのです」

 それでも日本に行きすぎた“母乳信仰”が根強いのは、WHOが母乳育児を推奨していることを根拠としているからだ。

「なぜWHOは母乳を勧めるのか。それは、途上国では不衛生な水などを使った粉ミルクを飲んで感染症になる赤ちゃんが多く、乳幼児死亡率が高いからです。衛生環境が整った日本には当てはまらないにもかかわらず、途上国向けの『母乳育児を成功させるための10カ条』だけいまだにプロパガンダされ、その結果、母乳が足りない赤ちゃんを飢えさせている」(久保田氏)

 久保田氏が母乳、粉ミルク、混合(母乳と粉ミルク)で赤ちゃんの飲む量を比較調査したところ、差はなかった。

「助産師の中には『人工乳を与えたら母乳を一切飲まなくなる』と言う人がいますが、それは迷信です。元気な赤ちゃんはお腹が減れば母乳でもミルクでも飲みます。赤ちゃんにとって最優先事項は充分な栄養を与えること。母乳が足りないときは心配せずに人工乳で栄養を補ってください。いちばん大切なのは、母親が母乳の出が少なくても安心して子育てをすることです」

※女性セブン2015年7月30日・8月6日号

関連キーワード

関連記事

トピックス

雅子さまが三重県をご訪問(共同通信社)
《お洒落とは》フェラガモ歴30年の雅子さま、三重県ご訪問でお持ちの愛用バッグに込められた“美学” 愛子さまにも受け継がれる「サステナブルの心」
NEWSポストセブン
大相撲九州場所
九州場所「17年連続15日皆勤」の溜席の博多美人はなぜ通い続けられるのか 身支度は大変だが「江戸時代にタイムトリップしているような気持ちになれる」と語る
NEWSポストセブン
一般女性との不倫が報じられた中村芝翫
《芝翫と愛人の半同棲にモヤモヤ》中村橋之助、婚約発表のウラで周囲に相談していた「父の不倫状況」…関係者が明かした「現在」とは
NEWSポストセブン
山本由伸選手とモデルのNiki(共同通信/Instagramより)
《噂のパートナーNiki》この1年で変化していた山本由伸との“関係性”「今年は球場で彼女の姿を見なかった」プライバシー警戒を強めるきっかけになった出来事
NEWSポストセブン
送検のため奈良西署を出る山上徹也容疑者(写真/時事通信フォト)
「とにかく献金しなければと…」「ここに安倍首相が来ているかも」山上徹也被告の母親の証言に見られた“統一教会の色濃い影響”、本人は「時折、眉間にシワを寄せて…」【安倍元首相銃撃事件・公判】
NEWSポストセブン
マレーシアのマルチタレント「Namewee(ネームウィー)」(時事通信フォト)
人気ラッパー・ネームウィーが“ナースの女神”殺人事件関与疑惑で当局が拘束、過去には日本人セクシー女優との過激MVも制作《エクスタシー所持で逮捕も》
NEWSポストセブン
デコピンを抱えて試合を観戦する真美子さん(時事通信フォト)
《真美子さんが“晴れ舞台”に選んだハイブラワンピ》大谷翔平、MVP受賞を見届けた“TPOわきまえファッション”【デコピンコーデが話題】
NEWSポストセブン
指定暴力団六代目山口組の司忍組長(時事通信フォト)
《六代目山口組・司忍組長2月引退》“竹内七代目”誕生の分岐点は「司組長の誕生日」か 抗争終結宣言後も飛び交う「情報戦」 
NEWSポストセブン
部下と“ホテル密会”が報じられた前橋市の小川晶市長(時事通信フォト/目撃者提供)
《前橋・小川市長が出直し選挙での「出馬」を明言》「ベッドは使ってはいないですけど…」「これは許していただきたい」市長が市民対話会で釈明、市議らは辞職を勧告も 
NEWSポストセブン
活動を再開する河下楽
《独占告白》元関西ジュニア・河下楽、アルバイト掛け持ち生活のなか活動再開へ…退所きっかけとなった騒動については「本当に申し訳ないです」
NEWSポストセブン
ハワイ別荘の裁判が長期化している
《MVP受賞のウラで》大谷翔平、ハワイ別荘泥沼訴訟は長期化か…“真美子さんの誕生日直前に審問”が決定、大谷側は「カウンター訴訟」可能性を明記
NEWSポストセブン
11月1日、学習院大学の学園祭に足を運ばれた愛子さま(時事通信フォト)
《ひっきりなしにイケメンたちが》愛子さま、スマホとパンフを手にテンション爆アゲ…母校の学祭で“メンズアイドル”のパフォーマンスをご観覧
NEWSポストセブン