よく「作品ごとにいろいろな顔に変わる」という意味で“カメレオン俳優”という言葉が使われ、香川照之さん、山田孝之さん、窪田正孝さんらの名前が上げられていますが、上川さんは同じ演技派にも関わらず、このグループには属しません。

 では、どんなグループなのでしょうか? 一般的に舞台出身の俳優は、劇場の隅々まで届かせるために演技が大きく、ドラマに出演したときに「大げさだ」と思われがちです。その点、上川さんは舞台出身なのに、そのような“やりすぎ感”が一切ありません。カッコよさも、熱の入れ方も、コミカルさも、全てほどよいところで留めているため、圧倒的に「見やすい」俳優なのです。

 俳優にとって演技をほどよいところで留めるのは、「物足りない」「なぜ本気で演じない」と言われる怖さがあり勇気が必要なのですが、上川さんはそれができる稀有な存在と言えるでしょう。ちなみに同じタイプとしては、小日向文世さんや堺雅人さんが挙げられます。

『エンジェル・ハート』の高評価は、上川さんが「誠実だから再現率が高い」からであり、「やりすぎないから見やすい」というところが大きいのではないでしょうか。

【木村隆志】
コラムニスト、テレビ・ドラマ解説者。テレビ、ドラマ、タレントを専門テーマに、メディア出演やコラム執筆を重ねるほか、取材歴2000人超のタレント専門インタビュアーとしても活動。さらに、独自のコミュニケーション理論をベースにした人間関係コンサルタントとして、1万人超の対人相談に乗っている。著書に『トップ・インタビュアーの聴き技84』(TAC出版)など。

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