そしてもう1つ忘れてはいけないのは、キャストへの演技指導。新垣結衣さんが『逃げ恥』公式サイトで、「(土井さんのことは)100%信頼しています」「コメディでお芝居をつけてもらうのが初めてで楽しかったですし、出来上がったものを見て、すごく突き抜けていて感動しました」と話していました。
撮影現場で他の俳優に土井さんの印象を聞いたときも、「指示が丁寧で具体的な話ができるからありがたい」「相談に乗ってもらえる雰囲気がある」と言っていましたし、かつて土井さんのワークショップに参加したことのある駆け出しの俳優も同様のことを言っていたことから、コミュニケーションに長けた人物像が浮かび上がります。
2010年代に入ってから「視聴者が分かりやすさとテンポの速さを求める」などドラマを取り巻く環境が変わりましたが、「登場人物の愛すべき人柄を引き出す」という土井演出の軸はブレません。キャストを信頼してシンプルな演出に留めるシーンも多く、その姿勢が『コウノドリ』の鴻鳥サクラ(綾野剛)、『重版出来!』の黒沢心(黒木華)、『カルテット』の4人のような愛らしく人間臭いキャラクターにつながっているのではないでしょうか。
土井さんが信頼しているのは俳優だけでなく、視聴者も同じ。プロデューサーも兼務するほどの意欲作『カルテット』の時代に逆行する難解な作風を見る限り、「面白いものを作れば、“ながら見”ではなく、集中して見てもらえる」という視聴者への信頼に他ならないのです。
◆残り3話に潜む「嘘」と「まさか」