いくら有利な情勢でも、解散には大リスクがある。改憲に政治生命を賭ける安倍首相が迷うのは当然だろう。そこで解散推進派が説得材料にしているのが安倍首相の大叔父、佐藤栄作首相の「黒い霧」解散(1966年)だ。

 当時、自民党議員がからんだ贈収賄事件や国有地売却の不透明な取引が相次ぎ、「黒い霧」と批判を浴びた。党内からも批判にさらされた佐藤首相は綱紀粛正を表明すると、意表を突いて1966年12月の国会冒頭で解散に踏み切った。

 当初は苦戦が予想されたが、結果は野党の準備不足で自民党はほとんど議席を減らさずに安定多数を確保し、佐藤内閣は戦後最長の長期政権に踏み出した。落選中だった安倍首相の父・晋太郎氏もこの選挙で返り咲きを果たした。

「麻生さんも二階さんも、“佐藤首相に倣え。今なら衆院の3分の2を維持できる”と安倍側近を通じて総理の耳に入れている」(自民党幹部)

 首相ブレーンの1人は、早期解散論の背後には別の思惑があると見ている。

「来年は先送りしてきた消費税率10%への引き上げを最終判断しなければならない。今のうちに安倍総理に解散・総選挙を決断させて4年の衆院任期を得れば、選挙を気にせずに増税できる。与党内の早期解散論を裏で煽っているのは財務省です」

 これまでなら重大な決断は自ら下してきた首相だが、求心力が低下した今、側近、与党、官僚までもが一丸となった解散風に抗うのは難しい。まるでピエロのように、その強風に煽られている。

※週刊ポスト2017年9月29日号

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