「山里は不遇である」ゆえに、カウンターとしての毒舌が機能。その目論見が正しかったことは、売れっ子芸人となったことで証明されている。
売れることと山里の「ブサイク」「モテない」「女性から舐められる」から発端する芸風の相性はすこぶる悪い。売れることによって、コンプレックスの多くが緩和されることは明らかだ。
しかし、方向転換することも難く、現実と芸風との乖離に息苦しくなる。今の山里は、自らの芸で自家中毒になっているように映る。
2012年に放送された『たりないふたり』(日本テレビ)では、山里はオードリーの若林正恭とコンビを組み、コンプレックスを芸に昇華した。
2人が紡ぐ「社会性」「社交性」「恋愛面」での劣等感物語。その感覚は、都市部に住む一般的なアラサー男性そのもの。
カリスマになれない芸人、「ガハハ」はできそうもない団塊ジュニアのサラリーマンの悲哀が重なる。
社会という荒波で生き抜く、戦場のボーイズ・ライフが『たりないふたり』であった。
山里と若林は1歳差の同年代、互いが互いをライバルだと認め合う。
若林は山里を「芸人に10のタイプがあるとすれば、僕と山ちゃんは同じタイプ」だと評する。
2人は自意識過剰さと生きづらさを表現した。
そして「じゃないほう芸人」という、相方のスター性に依存する形で世に出てきたアンチ芸人。
いつの時代も、邪道として登場した人がカリスマとなる。
アンチ芸人の2人は、己の芸と時代の機運があいまって、芸能界で自らの地位を築く。
話は飛び2018年1月1日、若林正恭と南沢奈央の恋愛が発覚した。
それを受けて山里はラジオで「頭が真っ白になるくらいショックがあった」と話す。
『たりないふたり』の時点では、同じ場所にいた2人。
しかし、ある時点から分岐していたのだろう。
『たりないふたり』#1で披露されたのが、飲み会の上手な断り方。互いに得意な断り方を披露した。
あれだけ飲み会の無意味さを叫んだ若林。しかし、数年前から西加奈子、朝井リョウ、中村文則といった小説家との交流が盛んに。
ラジオでも、小説家との飲み会話が数度にわたり披露された。売れっ子同士のサロンについてのトーク。
「人見知り」の日本代表であった男は変った。