◆巨大な「先行投資」
一方、3球団が競合し、東京ヤクルトが交渉権を獲得した石川・星稜の奥川恭伸は、あまりに対照的な存在だ。甲子園には春夏通算4回出場し、今夏は準優勝に輝いた。150キロを超える直球、大きく曲がるスライダー、ストンと落ちるフォークを狙ったコースに投げ分ける。W杯でも、7回18奪三振(カナダ戦)という衝撃の投球を見せた。
4月の高校日本代表第一次選考合宿で初めて対面したふたりは、実力を認め合う仲となった。W杯が開催された韓国で、佐々木は奥川を「おっくん」と呼んで慕い、いつも奥川の姿を探し、投球練習でもわざわざ奥川が使用したマウンドが空くのを待つほどだった。佐々木は奥川について、「器用なところや、頭の良さ、変化球の精度。それは自分にはないもの」と話した。その言葉は両右腕へのプロのスカウトの評価に通じる。
素材の佐々木、即戦力の奥川──。ある程度、計算の立つ奥川と違い、佐々木の交渉権を獲得した千葉ロッテに求められるのは、選手生命を脅かしかねない163キロの球速に耐えうる肉体の育成だ。前例のない挑戦となるがゆえに、指名を迷った球団もあったであろう。
プロで活躍するには、あまりにデリケートな身体ではないか。率直な疑問を“平成の怪物”を育てた名伯楽にぶつけた。1998年のドラフトで西武に1位指名され、1年目から16勝5敗という成績で新人王に輝いた松坂大輔を、横浜高校時代に同校野球部長として鍛え上げた小倉清一郎氏だ。
「佐々木ほどスケールの大きな投手はこれまで見たことがない。身体はまだまだで、足腰も鍛えられていないが、フォームをいじる必要性を感じない。血マメができやすい体質は、それだけ投球時、指先に力が伝わっている証拠。プロに行けば豊富な治療法がある。心配はないだろう」