飛田新地の料亭内で行なわれるのは、濃厚接触の極みたる“本番行為”だ。組合としてこれまでも性病を防ぐためにコンドームの着用を徹底し、衛生面には細心の注意を払っていたが、新型コロナへの“対策”も、早い段階から取り組んできた。
感染が拡大していなかった1月下旬から、スタッフ入店時の消毒、室内に加湿器の設置、こまめな水分補給と十分な睡眠──などを指導してきた。組合幹部が続ける。
「我々としては、各店舗を守り、その従業員たちの命を守らなくてはならない。歓楽街いうのは、皆様の1日の疲れを癒やす場所。社会が安定してこそ売り上げがある。一丸となって対応しなければならんのです」
3月に入り、感染者が急増すると、いよいよ「一斉休業」を視野に入れた理事会が頻繁に開かれるようになった。会合場所は飛田新地の一角に建つ「飛田会館」。大正12年築の建物の1階事務室に、各ブロック長が集った。
「侃々諤々の議論が続きました。一案として全店休業の話を切り出したんですが、『休業したら女の子らはどうするんや』と反対する者もおったし、当然ながら『潰れてしまうやろ』という声もあった。意見がまとまらんで、一堂が黙り込んでしまうこともあってね。ほとんど毎日のように会合を開いておりました」(同前)
休業への反対意見は料亭だけでなく飛田本通商店街からも届いた。飛田帰りに一杯引っかけていく観光客が減ってしまうという懸念があったのだ。
「なかには『感染者が出るまでやるべきや』という声もありました。みんなそれぞれ立場があるので、暴論とは片付けられなかった」(同前)
◆「売り上げが8割減」