現在、家のたんすに眠っている着物や帯の総額は20兆円に上る(出典:矢野経済研究所「きもの産業年鑑」、取得価格ベース)といわれている。その中には遺品整理で出てきたものも多く、高価なものもあり、「どう処分したらいいか迷っている」という声が少なくないという。
昭和の時代は冠婚葬祭などに着物の出番が多く、必需品のひとつだった。着物研究家の三宅てる乃さんはこう語る。
「昔は嫁入り道具として最低限でも留袖と喪服を持たされました。それに、小学校の入学式などでも、母親は着物に羽織でした。いわば着物がフォーマルウエアだったのです。だから和だんすを持っている人が多かったわけです。
そんな背景もあり、お母様が亡くなられてたんすを整理したら着物がたくさん出てきて、『懐かしい気持ちになると同時にどうしたらいいかわからない』という人がたくさんいるのもうなずけます」
そんなとき、三宅さんがするアドバイスとは?
「少しでも着たいという気持ちがあれば、やはりそのまま着るのがベストです。着物は日本の伝統衣装ですし、どんな場面でもフォーマルな印象を与えます。また既製品と違って同じものが少ない。特に、お母様世代のかたがたが仕立てていた着物は、国産の糸を織って、丁寧に染めて、職人さんが一つひとつ手描きで図柄を入れているものが多いんです。着物はその図柄を最大限生かしたデザインになっているので、できるだけ形を変えずに着てほしいですね」(三宅さん・以下同)
だが、母親と背丈や体格に違いがある場合は、仕立て直しをする必要がある。
「母親より太っていれば生地を継ぎ足せますし、やせていれば生地を縫い込むことができます。着物は、そうした仕立て直しや色の染め直しができるので、実は洋服に比べて自由度が高いんです」
仕立て直しの相場は3万〜7万円。新たに着物を仕立てるのに比べれば、かなりお手頃だ。ただし、「親と身長が10cm以上違う」「肩幅や手の長さが明らかに娘の方が長い」などの場合は要注意だ。
「着物を仕立て直すときは、身丈(着物の縦の長さ)と着丈(着物を着た際の丈の長さ)、裄(首の中央から袖口までの長さ)を測ります。
仮に娘さんの身長が母親より高い場合は、お腹まわりに布を継ぎ足して着物の丈を伸ばします。着る際に継ぎ足した部分は帯で隠れます。問題は裄。袖と肩側の部分の縫い代に余裕があれば、そこで調整して、手直しすれば着ることはできますが、あまりにも袖口が短すぎるものは、手直しが困難なことも。身丈や着丈と違って、裄は継ぎ足し部分を隠せないので、短すぎる場合は、シャツやワンピースなどにリメークするといいでしょう」
着物をリメークして活用する有名人も続々
着物をこよなく愛する芸能人の中には、親から受け継いだ着物を上手に活用している人も多い。内田也哉子は、母・樹木希林さんの着物を授賞式など晴れの舞台で着用している。木村多江は、母から譲り受けた着物用の桐たんすに収納し、自分の年齢とともに派手になった着物は、日舞の仲間に譲っているという。柴田理恵は、母親や祖母から受け継いだ着物で出かけたり、リメークするなどして楽しんでいる。
また、自らがリメークした着物をネット販売する人も増えている。親から受け継いだ着物を活かす方法は、いくつもあるのだ。
【プロフィール】
三宅てる乃さん/京都きものファッション協会代表。オートクチュール、レンタルなど着物に特化したショップ「京きもの粋」をプロデュースしている。
※女性セブン2023年7月20日号