密かに毎回入れられていた“足が浮くシーン”
本作はコメディであり、成長物語であり、音楽劇でもあるというのが重要なポイントだ。けれど、渋江はコメディであることは意識しないようにしていた。
「あくまで転生してきた孔明がズレてるから面白いのであって(狙って)ギャグにはしないと。それは向井さんとも一致していました。クランクイン前に食事をご一緒する機会があったんですけど、向井さんもこの作品ではギャグはやらない方が良いのではと。孔明として淡々と過ごすのが良いのではないかとおっしゃっていました」
一方で、喉に問題を抱えたアーティスト役のRYO(森崎ウィン)が孔明に処方された薬を飲むと澄んだ美声になったり、胸ぐらを掴まれた人物が宙に浮いたり、あえてマンガチックな演出も加えている。
「リアリティとか言いつつ、それを逸脱しているところもあるんですけど、迷ったときは最終的には“面白い”を取るようにしています。それにリアリティだけにこだわっていると表現が狭まってしまうというのもあるんですよね。声が変わる演出では最初、オペラ歌手をイメージしていたんですけど、オペラ歌手も普段の会話は普通の声を出すので、八尾さんの提案もあり、声優の梶裕貴さんにお願いしました。
実は僕の演出回では必ず“キャラクターが持ち上がって宙に浮く”シーンを入れています。続けて見てくれた人が面白く思えたらいいなって。他の演出の方の回も何らかの形で“足が浮くシーン”を入れてくれているんです。
撮影ではうんていのような器具に掴まってもらって、スタッフ皆でガーンって持ち上げるんですけど、その様子がバカバカしくて面白い。最終話では、その“浮きカット”がさらに進化しているので、そこはぜひ注目して見てほしいですね(笑)」
(後編に続く)
【プロフィール】渋江修平(しぶえ・しゅうへい)/映像ディレクター。1985年生まれ。King & PrinceのMV「シンデレラガール」(2018)、満島ひかりが出演した観光PR動画『突撃!南島原情報局(神回)』(2021)、TVドラマでは『30分版「犬神家の一族」』(NHK、2020)、『武士スタント逢坂くん!』(日本テレビ、2021)など、広告からMV、ドラマまで幅広く映像制作を手掛ける。
◆取材・文 てれびのスキマ/1978年生まれ。ライター。戸部田誠の名義での著書に『1989年のテレビっ子』(双葉社)、『タモリ学』(イーストプレス)、『芸能界誕生』(新潮新書)、『史上最大の木曜日 クイズっ子たちの青春記1980-1989』(双葉社)など。
撮影/槇野翔太