国内

佐々木俊尚氏 「ネットという鏡でマスコミの偏向報道可視化」

 9月14日に実施された民主党代表選をめぐって、大マスコミは反小沢報道に終始した。とはいえ、こうした“偏向報道”はネットによってはっきりと暴かれる結果になったのだが、それでもまだ日本のネットメディアは米国と比べると、その“真価”を発揮しきれていないという。以下、ITジャーナリストの佐々木俊尚氏が解説する。

 * * *
 今回の民主党代表選は、ネットという鏡で、マスコミの偏向報道がはっきりと可視化されるようになった端緒と位置付けられるかもしれない。

 大新聞を中心とするマスコミは、民主党代表選に関する報道で、政策論争をなおざりにして小沢一郎氏の「政治とカネ」の問題ばかり採り上げ、印象報道に終始した。こういった偏向報道に不満をもつネットユーザーのなかには、反マスコミの立場から小沢氏を支持する者も少なくない。他にも様々な要因はあるが、大手新聞とネットの世論調査で、菅氏と小沢氏の支持率が逆転する一因になったのは間違いないだろう。

 これまで新聞は何の疑いもなく受け入れられ、世論が形成される上で大きな役割を担ってきたが、ネットが鏡のように代替メディアとして機能した結果、その報道を異常だと気付く人が増えてきたということだ。

 では今後、大手メディアとネットメディアの関係はどうなっていくのか。それを考える上で、まず新聞が世論を形成するプロセスを分解してみよう。

【1】一次情報を取材し、記事にして読者に伝える情報伝達機能。
【2】大量の一次情報から読者に必要な情報だけを取捨選択する情報集約機能。
【3】その情報がいかに重要なのか、どういう意味があるのか分析し、世論を喚起する議題設定機能。
【4】調査報道による権力監視機能。

 これまで新聞が担ってきた、この4つの機能がネットにとって代わられようとしている。 現在の日本では、【1】については既にツイッターやブログなどが新聞やテレビより速く一次情報を伝達するようになっている。

【3】もかなりネットメディアで代替されるようになってきたといえる。弁護士や大学教員など、その道のプロたちがブログやツイッターで発言。その専門的知見は、今や新聞記者の解説記事を凌駕している。

 例えば今回の民主党代表選でも、大手メディアがいかに偏向報道をしているか、詳細な分析を加えたブログやツイッターへのつぶやきが非常に多かった。そういったマスコミに対する反発の輪が広がり、ネット上での小沢支持の拡大に繋がったのではないか。

 しかし、日本では現段階は【2】はまだ進んでいない。ネットと全く異なる新聞本紙の世論調査の結果は、ここに原因があるのではないかと私は見ている。日本では、情報を重要度に分けて整理して見せる機能を持つのはほぼ新聞だけだからだ。

 新聞が一面トップに連日、小沢氏のネガティブな情報を報じれば、それに左右される人が一定数いるのも当然だろう。

 だが、アメリカではさらにネットメディアによる代替が進んでいる。

【2】については女性ジャーナリストが始めた「ハフィントンポスト」がその一つだ。情報の収集や選別を行ない、ニュースに有名ブロガーによるコメントをつけるなどして配信する情報集約サイトで、世論に影響力を持つまでにユーザー数を伸ばしているのだ。

 ワシントンにある「ポリティコ」という政治記事を専門に配信するニュースサイトも同じだ。元新聞記者が多数参加して編集者を務め、定評を集めている。

【4】の調査報道についても、富裕層からの寄付金を集めて運営するNPO「プロパブリカ」が今年、ネットメディアとして初めてピューリッツァー賞を受賞したことで、その壁を突き破った。受賞したのは、ハリケーン・カトリーナの災害事故で極限の状況に追い込まれた医師や看護師の様子をレポートし問題提起をしたものだ。

 先日、私はニューヨークタイムズの東京支局長から取材を受け、「なぜ日本にはこういったサービスがないのか」と聞かれた。一瞬、言葉に詰まったが、「時間の問題でしょう」と答えておいた。日本でも新聞のウソがすべて白日のもとにさらされる日が近づいている。

※週刊ポスト2010年9月24日号

関連キーワード

関連記事

トピックス

高石あかりを撮り下ろし&インタビュー
『ばけばけ』ヒロイン・高石あかり・撮り下ろし&インタビュー 「2人がどう結ばれ、『うらめしい。けど、すばらしい日々』を歩いていくのか。最後まで見守っていただけたら嬉しいです!」
週刊ポスト
結婚を発表した趣里と母親の伊藤蘭
《趣里と三山凌輝の子供にも言及》「アカチャンホンポに行きました…」伊藤蘭がディナーショーで明かした母娘の現在「私たち夫婦もよりしっかり」
NEWSポストセブン
2021年に裁判資料として公開されたアンドルー王子、ヴァージニア・ジュフリー氏の写真(時事通信フォト)
《恐怖のマッサージルームと隠しカメラ》10代少女らが性的虐待にあった“悪魔の館”、寝室の天井に設置されていた小さなカメラ【エプスタイン事件】
NEWSポストセブン
2025年、第27回参議委員議員選挙で使用した日本維新の会のポスター(時事通信フォト)
《本当に許せません》維新議員の”国保逃れ”疑惑で「日本維新の会」に広がる怒りの声「身を切る改革って自分たちの身じゃなかったってこと」
NEWSポストセブン
防犯カメラが捉えた緊迫の一幕とは──
《浜松・ガールズバー店員2人刺殺》「『お父さん、すみません』と泣いて土下座して…」被害者・竹内朋香さんの夫が振り返る“両手ナイフ男”の凶行からの壮絶な半年間
NEWSポストセブン
寮内の暴力事案は裁判沙汰に
《広陵高校暴力問題》いまだ校長、前監督からの謝罪はなく被害生徒の父は「同じような事件の再発」を危惧 第三者委の調査はこれからで学校側は「個別の質問には対応しない」と回答
NEWSポストセブン
ドジャース・山本由伸投手(TikTokより)
《好みのタイプは年上モデル》ドジャース・山本由伸の多忙なオフに…Nikiとの関係は終了も現在も続く“友人関係”
NEWSポストセブン
齋藤元彦・兵庫県知事と、名誉毀損罪で起訴された「NHKから国民を守る党」党首の立花孝志被告(時事通信フォト)
NHK党・立花孝志被告「相次ぐ刑事告訴」でもまだまだ“信奉者”がいるのはなぜ…? 「この世の闇を照らしてくれる」との声も
NEWSポストセブン
ライブ配信アプリ「ふわっち」のライバー・“最上あい”こと佐藤愛里さん(Xより)、高野健一容疑者の卒アル写真
《高田馬場・女性ライバー刺殺》「僕も殺されるんじゃないかと…」最上あいさんの元婚約者が死を乗り越え“山手線1周配信”…推し活で横行する「闇投げ銭」に警鐘
NEWSポストセブン
親子4人死亡の3日後、”5人目の遺体”が別のマンションで発見された
《中堅ゼネコン勤務の“27歳交際相手”は牛刀で刺殺》「赤い軽自動車で出かけていた」親子4人死亡事件の母親がみせていた“不可解な行動” 「長男と口元がそっくりの美人なお母さん」
NEWSポストセブン
トランプ大統領もエスプタイン元被告との過去に親交があった1人(民主党より)
《電マ、ナースセットなど用途不明のグッズの数々》数千枚の写真が公開…10代女性らが被害に遭った“悪魔の館”で発見された数々の物品【エプスタイン事件】
NEWSポストセブン
大谷翔平と真美子さん(時事通信フォト)
《ハワイで白黒ペアルック》「大谷翔平さんですか?」に真美子さんは“余裕の対応”…ファンが投稿した「ファミリーの仲睦まじい姿」
NEWSポストセブン