国内

死亡件数1位(7万人) 肺がんはたばこを吸わなくてもなる

「がんについて知っている」のと「がんそのものを知る」ことは全く違う。“がんサバイバー”である医師の言葉は、生の迫力に満ちている。

******************************
 帝京大学医学部・加藤大基氏(39)に肺がんが見つかったのは2006年の春、まだ34歳だった。レントゲンを見た瞬間は、「まさかこれ俺の肺じゃないよね?」と思ったという。

「タバコは吸わないし食生活もインスタント食品やファストフードは避けて野菜を多く摂っていた。前年の定期健診でも肺の写真に異常はなかったですから」

 が、次の瞬間にはものすごいスピードで思考が回りだした。良性か悪性か、悪性なら原発か転移か、転移なら4期がんで余命は厳しい。つねに最悪な状況を考える性格だという。幸いにも、肺がんとしては、「初期」の段階だった。

「初期である1a期の肺がんで転移もなかった。手術のみで化学療法もしていません。初期がんは自覚症状がないんですが、僕はたまたま胸の圧迫感が気になり軽い気持ちで検査をオーダーしていた」

 胸の圧迫感はがんとは無関係と後でわかった。小さな幸運が重なったのだ。とはいえ手術は肋骨を切り肺の下半分と周辺リンパ節の一部を切除する大掛かりなものとなり、その影響は決して小さくなかった。左肩とひじの痛み、脈拍の上昇、水の誤嚥。治療で患者が受けるダメージを身をもって知った。それは再び第一線の現場に戻ってきたこととも無関係ではなかった。

「小さなクリニックの良さもあるのですが重症な患者さんはやはり大病院にいく。少しでも彼らの助けになりたかった。特に今後は放射線治療の需要は増える。放射線治療医の数は全国でわずか500人足らず、つねに医師不足なんです」

 1期の肺がんの5年生存率は75-80%。再発の不安とは残りの20-25%への不安だ。加藤氏の場合、頭から離れないその数字こそが人生のスイッチを押し、思いっきりアクセルを踏み込ませた。

「時間の有限性というのを非常に強く感じたんですね。それまではただ漠然と毎日が続いていくように感じる中で、色んなことを先延ばししながら鬱々した気分を重ねていた。それがある日突然人生の時間がスパッと切られちゃうかもしれないと考えたとき、これはまずいと思ったんです」

 うだうだ考えているうちに時間はどんどん過ぎていく。この人生でまだやっていないこと、やり残して悔いが残ることを高速フル回転で考えた。出てきたのは「結婚と自分の子ども」だった。「付き合っているような女性」はいたが先延ばししていたテーマだった。

「もともと結婚願望は薄いんです。ただ子どもは好きだから、自分の子どもと逢えずに死んだら後悔するだろうなと。それはもうすごい勢いで決断して。それこそエイ、ヤーと(笑い)」

 無事プロポーズは受けられ、ほどなく息子を授かった。現在2歳になる息子の存在は加藤氏の生きるモチベーションそのものだ。

「自分でも思わぬ展開でした。がんになったことで人生の速度が速くなったというか、人生が圧縮されて進んだのはたしかですね」

●肺がん(年間死亡数6万6849人・部位別順位=第1位)
 罹患数と死亡数に大きな差が無く、5年生存率は50%以下と低い。初期症状に風邪同様の咳や息苦しさなど。40歳以上で喫煙歴がある場合はがんリスクが高い。喫煙による患者は日本では男性で68%、女性では18%程度と推計される。外科手術や化学療法などが一般的だが、一部医療機関では免疫療法も試みられている。

※週刊ポスト2010年10月22日号

関連記事

トピックス

大谷の妻・真美子さん(写真:西村尚己/アフロスポーツ)と水原一平容疑者(時事通信)
《水原一平ショックの影響》大谷翔平 真美子さんのポニーテール観戦で見えた「私も一緒に戦うという覚悟」と夫婦の結束
NEWSポストセブン
大ヒット中の映画『4月になれば彼女は』
『四月になれば彼女は』主演の佐藤健が見せた「座長」としての覚悟 スタッフを感動させた「極寒の海でのサプライズ」
NEWSポストセブン
国が認めた初めての“女ヤクザ”西村まこさん
犬の糞を焼きそばパンに…悪魔の子と呼ばれた少女時代 裏社会史上初の女暴力団員が350万円で売りつけた女性の末路【ヤクザ博士インタビュー】
NEWSポストセブン
華々しい復帰を飾った石原さとみ
【俳優活動再開】石原さとみ 大学生から“肌荒れした母親”まで、映画&連ドラ復帰作で見せた“激しい振り幅”
週刊ポスト
中国「抗日作品」多数出演の井上朋子さん
中国「抗日作品」多数出演の日本人女優・井上朋子さん告白 現地の芸能界は「強烈な縁故社会」女優が事務所社長に露骨な誘いも
NEWSポストセブン
死体損壊容疑で逮捕された平山容疑者(インスタグラムより)
【那須焼損2遺体】「アニキに頼まれただけ」容疑者はサッカー部キャプテンまで務めた「仲間思いで頼まれたらやる男」同級生の意外な共通認識
NEWSポストセブン
学歴詐称疑惑が再燃し、苦境に立つ小池百合子・東京都知事(写真左/時事通信フォト)
小池百合子・東京都知事、学歴詐称問題再燃も馬耳東風 国政復帰を念頭に“小池政治塾”2期生を募集し準備に余念なし
週刊ポスト
(左から)中畑清氏、江本孟紀氏、達川光男氏による名物座談会
【江本孟紀×中畑清×達川光男 順位予想やり直し座談会】「サトテル、変わってないぞ!」「筒香は巨人に欲しかった」言いたい放題の120分
週刊ポスト
大谷翔平
大谷翔平、ハワイの25億円別荘購入に心配の声多数 “お金がらみ”で繰り返される「水原容疑者の悪しき影響」
NEWSポストセブン
【全文公開】中森明菜が活動再開 実兄が告白「病床の父の状況を伝えたい」「独立した今なら話ができるかも」、再会を願う家族の切実な思い
【全文公開】中森明菜が活動再開 実兄が告白「病床の父の状況を伝えたい」「独立した今なら話ができるかも」、再会を願う家族の切実な思い
女性セブン
ホワイトのロングドレスで初めて明治神宮を参拝された(4月、東京・渋谷区。写真/JMPA)
宮内庁インスタグラムがもたらす愛子さまと悠仁さまの“分断” 「いいね」の数が人気投票化、女性天皇を巡る議論に影響も
女性セブン
大谷翔平と妻の真美子さん(時事通信フォト、ドジャースのインスタグラムより)
《真美子さんの献身》大谷翔平が進めていた「水原離れ」 描いていた“新生活”と変化したファッションセンス
NEWSポストセブン