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長友佑都の価値は「人の話聞く耳をもっているところ」との指摘

 アジア人初の快挙ネラッズーロ(黒と青)のユニフォームを着た24歳の日本人が、イタリア・ミラノのスタジアムのピッチに立った。

 長友佑都である。その長友は、現地でどう評価されているのか。そして、その活躍はどんな意味を持つのか。サッカーをこよなく愛するコラムニスト・小田嶋隆氏が解説する。

 * * *
 イタリアサッカー界で、長友が最も評価されているのはそのスピードである。

 初スタメンとなった2月16日(現地時間)のフィオレンティーナ戦では、前半のチャンスで60m以上猛ダッシュして相手DFを幻惑、先制点に絡んだ。そのスピードを活かしたプレーはその日だけではなく、辛口な現地メディアも、「時速100キロのスピードで上がった」(トゥット・スポルト紙)などと、イタリアらしい大げさな表現で長友を評価している。

 走るスピードだけではない。パスを出す判断、走り出すタイミングの判断などという、頭の回転の速さも評価されているのだ。

 加えて、センタリングの精度などの攻撃力、簡単に弾き飛ばされずしつこくマークする守備力、攻守の切り替えの早さ。運動量が多く、それでいて持久力も持っている。すべてが最高レベルというわけではないが、高いレベルでバランスのとれた選手なのである。

 そして、彼が欧州サッカー界でも一目置かれているもうひとつの要因がある。

 それはサッカーの世界でいう「コーチャブル」であることだ。コーチできる、つまり教えがいのある、聞く耳を持った選手であるということだ。

 ゲームの中で自己犠牲の精神で献身的に動き、流れや空気を読んで周囲を生かせる選手であることを指す。この点は、かつて日本の鹿島アントラーズに在籍し、現在インテルの監督を務めるレオナルドの「長友は私の要求したことにちゃんと応えてくれた」とのコメントからも見てとれる。また、シニカルで鳴らす伊紙ガゼッタ・デロ・スポルトも、ザッケローニ日本代表監督のコメントを引いて、こうした長友のプレースタイルに対し、「現代のトレンドに沿う数少ないサイドバック」と珍しく褒めている。

 かつて活躍した中田英寿と長友はこの点で対照的だ。

「集団行動になじまず、時に上下関係も無視する」
「人を寄せ付けない雰囲気」

 中田は、そんな“とんがった選手”というイメージで伝えられた。

 中田のサッカー選手としての技術は素晴らしく、それによって順当に活躍しただけなのに、こうしたイメージによってあたかも「空気を読まない、ジコチューなプレースタイルだから彼は海外で認められ、成功した」と捉えられた。“孤高の一匹狼”でないと世界では活躍できないという、サッカーファンや未来の活躍を目指すサッカー少年にとっては、あまりポジティブではないメッセージが流布することとなってしまったのだ。

 サッカーに詳しいと自任するスポーツライターや、欧州事情をよく知ると言われる作家らが、こぞって中田を持ち上げるような顔をしながら、「人の良い」「周囲に気を配る」といった、いわば“日本人らしい日本人”を批判するネガティブキャンペーンを繰り広げたのだと、私は捉えている。

 確かに当時は、日本が活力を失い、社会全体でも「年功序列」「護送船団」など日本型経営が否定されたころと同期していた。空気を読んで周囲と合わせようとするあまり、リスクが取れないそれが日本人の悪い癖だと日本人自身が批判する風潮があった。

 そうした理屈は一理あったため、「自己主張をせよ、羊ではなく狼になれ」といった主張は一定の説得力をもって受け入れられたのだが、長友は決してチームでは“一匹狼”ではないし、そのプレースタイルはジコチューでもない。それが今、「コーチャブル」として信頼を得ているのである。

 付け加えれば、いずれもドイツリーグに移籍した岡崎慎司や内田篤人など、今世界で活躍しているサッカー選手たちは“日本人らしい日本人”であり、周囲と連携できるところが評価されていると言えよう。

※SAPIO2011年3月30日号

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