芸能

観客の「感動させてくれ!」要求に最も応える落語家は立川談春

 広瀬和生氏は1960年生まれ、東京大学工学部卒。音楽誌『BURRN!』編集長。30年来の落語ファンで、年間350回以上の落語会、1500席以上の高座に接する。その広瀬氏が「感動」を味わいたい人に勧めるのが、立川談春である。

 * * *
 古典落語の大ネタの数々で大観衆を魅了する「平成の名人」候補、立川談春。彼は現代の落語人気を象徴する落語家だ。

 21世紀に入り、それまで落語というジャンルに興味を持っていなかった新たなファン層が、大量に落語の世界に流入してきた。いわゆる落語ブームとは「落語という未知のエンターテインメントの発見」であった。

 新世代の落語ファン層の中核を成していたのが、エンターテインメントに対して貪欲な20~40歳代の「妙齢の女性たち」である。彼女らは、演劇を楽しむのと同じ感覚で、落語のライヴに足を運んだ。

 そこで彼女らが発見したのは、「落語が与える感動」だった。

 女性に限らず、現代のエンターテインメントにおいて、観客が最も求めているのは「感動」である。現代の落語ファンの最大の特徴は、「落語に感動を求める」ことにある。

 その、現代の観客の「感動させてくれ!」という要求に、最もストレートに応える演者が、立川談春だった。彼は、古典落語の大ネタが与える「ドラマティックな感動」を、個性的な台詞回しと卓越した話芸のテクニックで鮮烈に表現し、落語という芸能の奥深さを知らしめた。

 落語の真髄は人情噺よりも滑稽噺にこそある。そして、僕は談春の滑稽噺のバカバカしさをこよなく愛している。しかし、落語の世界に現代の観客を誘う「入り口」として、談春が『文七元結』『妾馬』『芝浜』『紺屋高尾』といった人情噺で与えたドラマティックな感動が、重要な役割を果たしたのは間違いない。

 1984年に17歳で立川談志に弟子入りした談春は、キレのいい口調と骨太の芸風で二ツ目時代から「大器」と評されていたが、後輩の志らくに真打昇進で先を越されるなど、長く不遇の時代を過ごした。大きく飛躍したのは、21世紀に入ってからだ。

 卓越したテクニックに内容が伴い、真のスケールの大きさを示すようになった談春は、入門20周年に当たる2004年を節目として快進撃を開始、新たに落語に興味を持って流入してきた新規の客層を魅了した。

 談春は、伝統芸能としての「話芸の粋」を体現する落語家だ。「名人」候補、と言われる理由はそこにある。

※週刊ポスト2011年3月18日号

関連記事

トピックス

試練を迎えた大谷翔平と真美子夫人 (写真/共同通信社)
《大谷翔平、結婚2年目の試練》信頼する代理人が提訴され強いショックを受けた真美子さん 育児に戸惑いチームの夫人会も不参加で孤独感 
女性セブン
藤川監督と阿部監督
阪神・藤川球児監督にあって巨人・阿部慎之助監督にないもの 大物OBが喝破「前監督が育てた選手を使い、そこに工夫を加えるか」で大きな違いが
NEWSポストセブン
「天下一品」新京極三条店にて異物(害虫)混入事案が発生
【ゴキブリの混入ルート】営業停止の『天下一品』FC店、スープは他店舗と同じ工場から提供を受けて…保健所は京都の約20店舗に調査対象を拡大
NEWSポストセブン
海外から違法サプリメントを持ち込んだ疑いにかけられている新浪剛史氏(時事通信フォト)
《新浪剛史氏は潔白を主張》 “違法サプリ”送った「知人女性」の素性「国民的女優も通うマッサージ店を経営」「水素水コラムを40回近く連載」 警察は捜査を継続中
NEWSポストセブン
ヒロイン・のぶ(今田美桜)の妹・蘭子を演じる河合優実(時事通信フォト)
『あんぱん』蘭子を演じる河合優実が放つ“凄まじい色気” 「生々しく、圧倒された」と共演者も惹き込まれる〈いよいよクライマックス〉
週刊ポスト
石橋貴明の現在(2025年8月)
《ホッソリ姿の現在》石橋貴明(63)が前向きにがん闘病…『細かすぎて』放送見送りのウラで周囲が感じた“復帰意欲”
NEWSポストセブン
決死の議会解散となった田久保眞紀・伊東市長(共同通信)
「市長派が7人受からないとチェックメイト」決死の議会解散で伊東市長・田久保氏が狙う“生き残りルート” 一部の支援者は”田久保離れ”「『参政党に相談しよう』と言い出す人も」
NEWSポストセブン
ヘアメイク女性と同棲が報じられた坂口健太郎と、親密な関係性だったという永野芽郁
「ずっと覚えているんだろうなって…」坂口健太郎と熱愛発覚の永野芽郁、かつて匂わせていた“ゼロ距離”ムーブ
NEWSポストセブン
新潟県小千谷市を訪問された愛子さま(2025年9月8日、撮影/JMPA) 
《初めての新潟でスマイル》愛子さま、新潟県中越地震の被災地を訪問 癒やしの笑顔で住民と交流、熱心に防災を学ぶお姿も 
女性セブン
自民党総裁選有力候補の小泉進次郎氏(時事通信フォト)
《自民党総裁選有力候補の小泉進次郎氏》政治と距離を置いてきた妻・滝川クリステルの変化、服装に込められた“首相夫人”への思い 
女性セブン
ヘアメイク女性と同棲が報じられた坂口健太郎と、親密な関係性だったという永野芽郁
《初共演で懐いて》坂口健太郎と永野芽郁、ふたりで“グラスを重ねた夜”に…「めい」「けん兄」と呼び合う関係に見られた変化
NEWSポストセブン
2泊3日の日程で新潟県を訪問された愛子さま(2025年9月8日、撮影/JMPA)
《雅子さまが23年前に使用されたバッグも》愛子さま、新潟県のご公務で披露した“母親譲り”コーデ 小物使い、オールホワイトコーデなども
NEWSポストセブン