国際情報

海外メディア「日本人賞賛」の後に菅政権・東電バッシング

 海外メディアが今回の大震災を報道する中で、世界の人たちは、すっかり忘れかけていた日本と日本人をつぶさに観た。震災の映像を見ながら、副産物的に生の日本人を再確認したのだ。

 そして、九死に一生を得た人たちの表情、しぐさ。悲しみを必死に耐えながら、秩序正しく、冷静さを保っている日本の被災者たちの姿に各メディアは賞賛の声すらあげた。 

 ところが、3月16日頃からこうした報道のトーンは大きく変わってきた。在米ジャーナリストの高濱賛氏が報告する。

 * * *
 日本国民一般を褒めまくった海外のメディアは、3月16日以降、菅政権、とくに原発の状況を説明する政府当局者や東京電力に怒りの矛先を向けてきた。

 緊急事態宣言が出された福島第2原発の1号機をめぐる対応で、後手後手に回る菅政権。それに噛み付いたのは、フォックス・ニュースが特派したアンカーマン、ジミー・コルビー記者だ。

「周辺住民に対する避難範囲が10km圏から20km圏とコロコロ変わったり、実際に爆発が起きてから発表まで2時間もかかったり、危機管理がちぐはぐだ」

 英エコノミスト誌は3月17日付の社説で「原発事故による排出放射能は日本政府の発表より強いものにみえる。日本の原子力産業には隠蔽と無能力の長い歴史がある。今回の東京電力の対応はその過去の行動をなぞっている」と、日本政府批判への口火を切った。

 メディア報道は各国の国民を刺激、自国政府や国際機関に鋭い目を向け始めた。米政府は、3月16日、在日大使館を通じ、福島第1原発の半径80km以内の米国民に退避勧告を出し、大使館職員の家族らの自主的な国外退避を認めた。
 
 一方業を煮やした国際原子力機関(IAEA)の天野之弥事務局長は急遽訪日し、菅首相に対して「情報を最大限出し、透明性をもって世界に伝えて欲しい」と迫った。

 原子力問題では最も権威のある専門誌「Bulletin of the Atomic Scientists」がいち早く、福島原発特集を組んだ。

「今後、世界は原発利用で二分するだろう。他のエネルギーの選択肢を持ち、パワフルな反環境破壊機運の強い国は原子力エネルギーから遠ざかるが、そうでない中国やインドは原子力エネルギーに固執するだろう」と予測。原子力の安全性をどう高めていくか、人類はこれまで以上に厳しい正念場を迎えると分析している。

 今回の重層的災害で日本が蒙った損害額は軽く見積もっても12億ドル(世界をリードする損害再保険会社、スイス・リー社の見積もり)。スローダウンした生産力、輸出供給力をどう取り戻し、経済を軌道に乗せるのか。

 著名な米投資家のウォーレン・バフェット氏のように「日本経済への影響は中長期的には大きくない」と予測する向きもある。
 
 が、これまで日本に有利に働いてきたグローバリゼーションが震災を受けた日本を著しく脆弱化させるのではないか、との悲観論も聞こえてくる。「日本は今より貧しくなる。日本は555兆円の対外資産を売却せざるをえなくなるかもしれぬ」(The Globalistのピーター・モリッチ記者)といった指摘も出ている。

※SAPIO2011年4月20日号


関連キーワード

関連記事

トピックス

世界中でセレブら感度の高い人たちに流行中のアスレジャーファッション(左・日本のアスレジャーブランド「RUELLE」のInstagramより、右・Backgrid/アフロ)
《広瀬すずもピッタリスパッツを普段着で…》「カタチが見える服」と賛否両論の“アスレジャー”が日本でも流行の兆し、専門家は「新しいラグジュアリーという捉え方も」と解説
NEWSポストセブン
浅香さんの自宅から姿を消した内縁の夫・世志凡太氏
《長女が追悼コメント》「父と過ごした日々を誇りに…」老衰で死去の世志凡太さん(享年91)、同居するスリランカ人が自宅で発見
取締役の辞任を発表したフジ・メディア・ホールディングスとフジテレビ(共同通信社)
《辞任したフジ女性役員に「不適切経費問題」を直撃》社員からは疑問の声が噴出、フジは「ガバナンスの強化を図ってまいります」と回答
NEWSポストセブン
子宮体がんだったことを明かしたタレントの山瀬まみ
《“もう言葉を話すことはない”と医師が宣告》山瀬まみ「子宮体がん」「脳梗塞」からの復帰を支えた俳優・中上雅巳との夫婦同伴姿
NEWSポストセブン
愛子さま(写真/共同通信社)
《12月1日がお誕生日》愛子さま、愛に包まれた24年 お宮参り、運動会、木登り、演奏会、運動会…これまでの歩み 
女性セブン
海外セレブの間では「アスレジャー
というファッションジャンルが流行(画像は日本のアスレジャーブランド、RUELLEのInstagramより)
《ぴったりレギンスで街歩き》外国人旅行者の“アスレジャー”ファッションに注意喚起〈多くの国では日常着として定着しているが、日本はそうではない〉
NEWSポストセブン
虐待があった田川市・松原保育園
《保育士10人が幼児を虐待》「麗奈は家で毎日泣いてた。追い詰められて…」逮捕された女性保育士(25)の夫が訴えた“園の職場環境”「ベテランがみんな辞めて頼れる人がおらんくなった」【福岡県田川市】
NEWSポストセブン
【複雑極まりない事情】元・貴景勝の湊川親方が常盤山部屋を継承へ 「複数の裏方が別の部屋へ移る」のはなぜ? 力士・スタッフに複数のルーツが混在…出羽海一門による裏方囲い込み説も
【複雑極まりない事情】元・貴景勝の湊川親方が常盤山部屋を継承へ 「複数の裏方が別の部屋へ移る」のはなぜ? 力士・スタッフに複数のルーツが混在…出羽海一門による裏方囲い込み説も
NEWSポストセブン
アスレジャースタイルで渋谷を歩く女性に街頭インタビュー(左はGettyImages、右はインタビューに応じた現役女子大生のユウコさん提供)
「同級生に笑われたこともある」現役女子大生(19)が「全身レギンス姿」で大学に通う理由…「海外ではだらしないとされる体型でも隠すことはない」日本に「アスレジャー」は定着するのか【海外で議論も】
NEWSポストセブン
中山美穂さんが亡くなってから1周忌が経とうとしている
《逝去から1年…いまだに叶わない墓参り》中山美穂さんが苦手にしていた意外な仕事「収録後に泣いて落ち込んでいました…」元事務所社長が明かした素顔
NEWSポストセブン
イギリス出身のインフルエンサー、ボニー・ブルー(Instagramより)(Instagramより)
《俺のカラダにサインして!》お騒がせ金髪美女インフルエンサー(26)のバスが若い男性グループから襲撃被害、本人不在でも“警備員追加”の大混乱に
NEWSポストセブン
(左から)中畑清氏、江本孟紀氏、達川光男氏の人気座談会(撮影/山崎力夫)
【江本孟紀・中畑清・達川光男座談会1】阪神・日本シリーズ敗退の原因を分析 「2戦目の先発起用が勝敗を分けた」 中畑氏は絶不調だった大山悠輔に厳しい一言
週刊ポスト