被害総額20兆円以上と言われる東日本大震災。だが、デフレ状態で過剰だった供給能力を活かすことで、大震災からの復興を短期間で成し遂げ、「黄金の10年」を実現することができると経済評論家の三橋貴明氏は訴える。
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日本経済の「宝」とは、デフレである。そもそも、デフレとは、日本経済が保有する「本来の供給能力(潜在GDP)」に対し、「実際のGDP(現実の需要)」が小さすぎることに起因している。すなわち「本来の供給能力>実際のGDP」という関係になっており、両者の間にマイナスの乖離が生じているのだ。
「本来の供給能力-実際のGDP」で計算されるマイナスの乖離を、デフレギャップと呼ぶ。内閣府によると、日本経済のデフレギャップはGDPの4%程度とのことである。金額に直すと、20兆円規模だ。しかし、日本のデフレ深刻化を思うと、我が国のデフレギャップは、とてもではないが対GDP比4%程度では収まらない可能性が高い。
いずれにしても、デフレの主因であるデフレギャップの存在は、以前は日本経済を苦しめる元凶であった。ところが、これまで日本を散々に苦しめた巨大なデフレギャップは、今や我が国の「宝」となった。なぜだろうか。
デフレギャップが大きい(日本は間違いなく世界一大きい)ということは、我が国にそれだけ余剰の供給能力が存在しているということを意味する。すなわち、日本は復興財源として、政府が数十兆円規模の国債増発を実施し、長期金利抑制のために日銀が金融市場から国債を買い取っても、全くインフレにならないのである。あるいは、政府が復興資金について、(国会決議を経て)日銀に国債を直接引き受けさせることで調達した場合も同じだ。
日本は国内の供給能力の余剰が巨大化し、震災と復興という需要の急増にも充分すぎるほどに対応可能である。これほどまでに強靭な供給能力を国内に保有している国は、日本以外には存在しない(むしろ、だからこそ延々とデフレが続いていた)。他の国が日本の真似をしようとした場合、すぐに供給能力の不足に陥り、国内のインフレ率が急騰してしまう。
デフレギャップの存在とは、国内の需要(実際のGDP)不足を意味している。しかし、現在の日本では震災により需要が膨らんでいるのだ。後は、政府が国債発行などで資金を調達し、復興のための建設投資(土木、住宅投資など)を拡大すれば、日本経済は「復興から成長へ」というプロセスを、一気に駆け抜けることができるだろう。
1995年の阪神・淡路大震災の際には、やはり国内の建設投資が4兆円も拡大した。建設投資とは、先述の通りGDPの一部である。建築投資を中心に日本のGDPは成長軌道に乗り、1996年にはバブル崩壊(1990年~1991年)の痛手を一時的に乗り越えることに成功したのである。しかし、日本がバブル崩壊から完全に立ち直ったと勘違いした橋本政権は緊縮財政を強行し、現在に連なるデフレ深刻化が始まるという結果をもたらした。
阪神・淡路大震災のときと同様に、日本経済が「復興から成長へ」のプロセスを辿ることは確実だ。何しろ、日本にはデフレギャップすなわち「供給能力の余剰」という宝が存在している。さらに、被災地域が震災の痛手から復興し、国内経済の成長率が高まった後に、緊縮財政を強行するような「愚行」さえ繰り返さなければ、日本経済は「黄金の10年」を迎えることができる。
いずれにせよ、過去の日本人はこの日本列島において、何度も、何十度も震災に打ちのめされ、その度に復興し、以前よりも素晴らしい生活環境を実現することを続けてきた。我々は、不屈の精神で震災を乗り越え、世界に比類なき文化を花開かせることを続けてきた、過去の日本人の子孫なのだ。
さあ、復興と成長をはじめよう。
※SAPIO2011年4月20日号