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2000年前のモテない男 ポンペイに「愛する者は死ね」と書く

 古代ローマ時代の都市・ポンペイは紀元79年のヴェスヴィオ火山の大噴火で埋もれたが18世紀から発掘が進み、現在は街並みがほぼそっくり再現されている。古代ローマの市民生活をリアルな形で今日に伝えるという意味において、この都市遺跡に勝るテキストはない。

 ポンペイは愛の女神であるウエヌス(ヴィーナス)を守護神として信奉していた。愛の神はわが子クピド(キューピッド)を町中に飛びまわらせ、愛の交歓で溢れさせていた。

『ローマ人の愛と性』(講談社現代新書)などの著書がある、文学博士(西洋史学)の本村凌二東大教授は、ポンペイを訪れた際の町の様子をこう語る。「家の中や商店街の通路、広場、公共施設などの壁には落書きが残され、そこに赤裸々なセックスへの想いの丈が描かれています」

 古代ローマにおいて、性を謳歌することはごく一般的なことであり、そこに禁忌の意識はまったくない。本村教授はこんなローマの男のメッセージを紹介してくれた。

「男根が命じるのだ、愛せよと」

 実にストレートな落書きだ。とはいえ、2000年の時空を経ても、男の衝動は不変というべきだろう。

「愛する者は誰でも死んでしまえ」

 乱暴だが、これまた男の心情に満ちている。モテない現実と猛る男根との相克に悩む若者たち。そんな暴れ馬を肉体に抱えた彼らは、性の衝動をどこへ向かわせたのか。

「ポンペイには娼婦の部屋が9つ、売春館19か所だけでなく、売春を行なっていた居酒屋や住居が35もあるのです」(本村教授)

 その壁には、客や娼婦の息づかいまで聞こえてきそうな落書きが残っている。

「女奴隷ロガスは8アス」

 売春婦とのプレイ代だ。ポンペイでは、1アスあればグラスワインが飲めた。してみると女を買うには5000から8000円は必要というわけだが、少し待ってほしい。日本は重税のせいで酒の値が非常に高くつく。今日的な感覚だと1アスは100円くらいと考えていい。

※週刊ポスト2011年5月27日号

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