国内

菅政権に新聞が甘いのは横並びの御用機関に成り下がったから

 いったん退陣表明したくせに、ズルズルと宰相の座に居座り続け、鳴り物入りで抜擢した復興相の暴言辞任でも責任を取らない“あの人”を、なぜ大メディアは許してしまうのか。政治評論家の森田実氏は、菅首相を始めとする情けない政治家たちを甘やかしてきた新聞、テレビの責任は重いと指摘する。

 * * *
 なぜ、新聞、テレビなどの大マスコミは菅政権にこれほど甘いのか。

 結論から言えば、特に東京に本社を構えるテレビや新聞各社が、横並びの政府御用報道機関に成り下がっているからである。
 
 そもそも、大新聞社の社屋がある土地はほとんどが政府から払い下げられたもので、大新聞社はその土地を使って不動産業を営み、経営を支えている。

 過去において、新聞の全国一律定価販売などを巡り、新聞社への独占禁止法の適用問題が表面化した時、各紙は一斉に政権攻撃を強めるが、適用見送りになると、一気に攻撃が沈静化するという茶番劇を、私は何度も見せつけられてきた。
 
 要するに、これら大新聞社は、一見すると政権に対して批判がましいことを言っているようでも、実は駆け引きのための揺さぶりをしているに過ぎないのだ。国から放送免許をもらっているテレビ局も事情は似たりよったりである。

 かつてマスコミは司法、立法、行政を監視する「第四の権力」と言われたものだが、今や「第一の権力」と言っても過言でない巨大な力を持つようになっている。

 その典型が『読売新聞』だ。同紙は6月3日付社説で、こう書いた。

〈大連立によって国難に立ち向かい、日本再生の具体像を提示すべきだ〉

 次の衆議院選挙まで約2年。民主党と自民党が連立政権を組めるわけはないのに、読売は自分が政治を動かす権力者になったつもりで大連立を声高に叫んでいるのだ。2007年の大連立騒動の時もそうだったが、メディアとして傲慢と言うほかない。

 かつての自民党政権と官僚の蜜月時代には、メディアの力はそれほどでもなかったように思う。しかし、小泉政権が郵政改革を断行するために「抵抗勢力」と名指しした族議員を排除する過程で、メディアと政治権力は「反官僚同盟」とも言うべき関係を結ぶに至った。
 
 自民党から政権を受け継いだ民主党も「政治主導」の名の下に、過剰なまでの官僚排除を打ち出す一方、メディアも官僚を叩くことで自らの相対的地位を高めていった。その結果、大手メディアに「官僚を叩けば受ける」という安直な報道姿勢が目立つようになったのだ。

 そうした報道姿勢の弊害は、今回の震災報道にも表われている。実際に現地を見れば分かるが、今、被災地に欠けているのは「復興に向けたカネ」と「中央政府の存在感」である。これらは、内閣が行政の担当者である官僚に仕事をさせることで、初めて実効性が担保される。しかし官僚を排除した「政治主導」を掲げてきた菅内閣は、官僚を全く使いこなせていない。こうした問題を追及している大マスコミを私は知らない。

 さらに言えば原発事故のすべての責任を東電に押し付けている菅政権の姿勢に疑問を呈する報道もほとんどない。

 私の知る限り、6月24日付『東京新聞』で、民主党の山口壮衆院議員がインタビューに答え、政府の原発事故対応の問題点として「政府が責任を持って解決する気迫が足りない」「統合本部が東電にあることもおかしい」と言っているぐらいだ。
 
 3.11直後から「東日本大震災への対応のために、一時、菅政権への批判を控える」といった風潮が一部のメディアにあったのは確かである。しかし私は、政治家やジャーナリストのそんな「配慮」は、百害あって一利なしと考える。
 
 政治指導者はもちろん、マスコミ人も物事の「是非」を曖昧にしてはならない。批判を忘れたら民主主義は成り立たないからだ。批判精神を捨てたマスコミは有害である。

※SAPIO 2011年8月3日号

関連キーワード

関連記事

トピックス

まだ重要な問題が残されている(中居正広氏/時事通信フォト)
中居正広氏と被害女性Aさんの“事案後のメール”に「フジ幹部B氏」が繰り返し登場する動かぬ証拠 「業務の延長線上」だったのか、残された最後の問題
週刊ポスト
生徒のスマホ使用を注意しても……(写真提供/イメージマート)
《教員の性犯罪事件続発》過去に教員による盗撮事件あった高校で「教員への態度が明らかに変わった」 スマホ使用の注意に生徒から「先生、盗撮しないで」
NEWSポストセブン
(写真/イメージマート)
《ロマンス詐欺だけじゃない》減らない“セレブ詐欺”、ターゲットは独り身の年配男性 セレブ女性と会って“いい思い”をして5万円もらえるが…性的欲求を利用した驚くべき手口 
NEWSポストセブン
遠野なぎこ(本人のインスタグラムより)
《ブログが主な収入源…》女優・遠野なぎこ、レギュラー番組“全滅”で悩んでいた「金銭苦」、1週間前に公表した「診断結果」「薬の処方」
NEWSポストセブン
京都祇園で横行するYouTuberによる“ビジネス”とは(左/YouTubeより、右/時事通信フォト)
《芸舞妓を自宅前までつきまとって動画を回して…》京都祇園で横行するYouTuberによる“ビジネス”「防犯ブザーを携帯する人も」複数の被害報告
NEWSポストセブン
由莉は愛子さまの自然体の笑顔を引き出していた(2021年11月、東京・千代田区/宮内庁提供)
愛子さま、愛犬「由莉」との別れ 7才から連れ添った“妹のような存在は登校困難時の良きサポート役、セラピー犬として小児病棟でも活動
女性セブン
インフルエンサーのアニー・ナイト(Instagramより)
海外の20代女性インフルエンサー「6時間で583人の男性と関係を持つ」企画で8600万円ゲット…ついに夢のマイホームを購入
NEWSポストセブン
ホストクラブや風俗店、飲食店のネオン看板がひしめく新宿歌舞伎町(イメージ、時事通信フォト)
《「歌舞伎町弁護士」のもとにやって来た相談者は「女風」のセラピスト》3か月でホストを諦めた男性に声を掛けた「紫色の靴を履いた男」
NEWSポストセブン
『帰れマンデー presents 全国大衆食堂グランプリ 豪華2時間SP』が月曜ではなく日曜に放送される(番組公式HPより)
番組表に異変?『帰れマンデー』『どうなの会』『バス旅』…曜日をまたいで“越境放送”が相次ぐ背景 
NEWSポストセブン
遠野なぎこ(本人のインスタグラムより)
《自宅から遺体見つかる》遠野なぎこ、近隣住民が明かす「部屋からなんとも言えない臭いが…」ヘルパーの訪問がきっかけで発見
NEWSポストセブン
2014年に結婚した2人(左・時事通信フォト)
《仲間由紀恵「妊活中の不倫報道」乗り越えた8年》双子の母となった妻の手料理に夫・田中哲司は“幸せ太り”、「子どもたちがうるさくてすみません」の家族旅行
NEWSポストセブン
詐称疑惑の渦中にある静岡県伊東市の田久保眞紀市長(左/Xより)
《大学時代は自由奔放》学歴詐称疑惑の田久保市長、地元住民が語る素顔「裏表がなくて、ひょうきんな方」「お母さんは『自由気ままな放蕩娘』と…」
NEWSポストセブン