スポーツ

甲子園大会 最前列の席取り不可な背後にとある倶楽部の存在

第93回夏の甲子園大会は日大三高の優勝で幕を閉じたが、熱戦の舞台となった甲子園球場正門わきの8号門に集う「8号門の住人」たちが存在する。全試合最前列。彼らは「阪神甲子園球場8号門倶楽部」メンバーで全国各所から集う熱狂的甲子園ファン。球場正面で野宿し、「ネット裏のヒーロー」と呼ばれていた彼らを、作家の山藤章一郎氏が追った。

* * *
高校野球に指定席の販売はない。最前列の同じ席を取る方法は? 神奈川氏(神奈川県から来た人物)に訊いた。

「ここはもう、何年前から来ても坐れないよ。今日の試合終わると同時に、15日間の通し券を持っているわれわれが、明日のために8号門に寝泊まりして並ぶの。だから俺らの前には、誰も行けない」

球場正門わきの8号門に集う「8号門倶楽部」の会員は、現在96人。10人前後が正門前に常時寝泊まりしている。彼らの起床は4時。まだ暗い。街灯の灯りを頼りに、段ボールやマット、椅子などを、球場脇の植え込みに隠す。水道で体と顔を拭き洗い、歯を磨く。

5時。駅前のコンビニへおにぎり、弁当、サンドイッチ、飲み物などを買いに行く。そのあいだ、倶楽部のメンバーが場を見張る。尼崎からの始発が甲子園駅に4時45分に着くと、たちまち200人、300人が押しかけてきて横割りしてくるから油断はできない。

5時20分、日の出。日により開門時間が10分、15分早まるのも緊張を高める。メンバーは、滋賀、愛知、秋田、奈良、大阪、千葉、神奈川など、ばらばらの地方から来ている。

8号門に寝泊まりしてない人もいる。一泊5000円のホテルから、尼崎発4時36分の始発電車で通って来る習志野氏。

近くの、20日間2人で7万円のウイークリーマンションを利用する神奈川氏。習志野氏は、松坂よりもっとさかのぼる江川の時代から甲子園に来ていた。あるとき、正面の8号門で寝ている人を目にした。

そうか、ここで朝を待てばネット裏の前列席が取れるのか。気づいたが、カネもヒマもない。定年を越していま念願を果たしている。ポロシャツ10枚、下着5枚、ズボン4本……みなと同じ数の衣類をバッグに詰めてきた。ホテルのランドリーで洗濯する。

「一日中坐って、尻も背中も痛いですよ。でも、子どもたちは一回負けると、もう後がない。痛いといってられません。おカネを遣わないように、つまんないもの食べて、ここに棲んでます。2キロ痩せました」

※週刊ポスト2011年9月9日号

関連キーワード

関連記事

トピックス

長男・泰介君の誕生日祝い
妻と子供3人を失った警察官・大間圭介さん「『純烈』さんに憧れて…」始めたギター弾き語り「後悔のないように生きたい」考え始めた家族の三回忌【能登半島地震から2年】
NEWSポストセブン
古谷敏氏(左)と藤岡弘、氏による二大ヒーロー夢の初対談
【二大ヒーロー夢の初対談】60周年ウルトラマン&55周年仮面ライダー、古谷敏と藤岡弘、が明かす秘話 「それぞれの生みの親が僕たちへ語りかけてくれた言葉が、ここまで導いてくれた」
週刊ポスト
小林ひとみ
結婚したのは“事務所の社長”…元セクシー女優・小林ひとみ(62)が直面した“2児の子育て”と“実際の収入”「背に腹は代えられない」仕事と育児を両立した“怒涛の日々” 
NEWSポストセブン
松田聖子のものまねタレント・Seiko
《ステージ4の大腸がん公表》松田聖子のものまねタレント・Seikoが語った「“余命3か月”を過ぎた現在」…「子供がいたらどんなに良かっただろう」と語る“真意”
NEWSポストセブン
今年5月に芸能界を引退した西内まりや
《西内まりやの意外な現在…》芸能界引退に姉の裁判は「関係なかったのに」と惜しむ声 全SNS削除も、年内に目撃されていた「ファッションイベントでの姿」
NEWSポストセブン
(EPA=時事)
《2025の秋篠宮家・佳子さまは“ビジュ重視”》「クッキリ服」「寝顔騒動」…SNSの中心にいつづけた1年間 紀子さまが望む「彼女らしい生き方」とは
NEWSポストセブン
イギリス出身のお騒がせ女性インフルエンサーであるボニー・ブルー(AFP=時事)
《大胆オフショルの金髪美女が小瓶に唾液をたらり…》世界的お騒がせインフルエンサー(26)が来日する可能性は? ついに編み出した“遠隔ファンサ”の手法
NEWSポストセブン
日本各地に残る性器を祀る祭りを巡っている
《セクハラや研究能力の限界を感じたことも…》“性器崇拝” の“奇祭”を60回以上巡った女性研究者が「沼」に再び引きずり込まれるまで
NEWSポストセブン
初公判は9月9日に大阪地裁で開かれた
「全裸で浴槽の中にしゃがみ…」「拒否ったら鼻の骨を折ります」コスプレイヤー・佐藤沙希被告の被害男性が明かした“エグい暴行”「警察が『今しかないよ』と言ってくれて…」
NEWSポストセブン
国分太一の素顔を知る『ガチンコ!』で共演の武道家・大和龍門氏が激白(左/時事通信フォト)
「あなたは日テレに捨てられたんだよっ!」国分太一の素顔を知る『ガチンコ!』で共演の武道家・大和龍門氏が激白「今の状態で戻っても…」「スパッと見切りを」
NEWSポストセブン
初公判では、証拠取調べにおいて、弁護人はその大半の証拠の取調べに対し不同意としている
《交際相手の乳首と左薬指を切断》「切っても再生するから」「生活保護受けろ」コスプレイヤー・佐藤沙希被告の被害男性が語った“おぞましいほどの恐怖支配”と交際の実態
NEWSポストセブン
2009年8月6日に世田谷区の自宅で亡くなった大原麗子
《私は絶対にやらない》大原麗子さんが孤独な最期を迎えたベッドルーム「女優だから信念を曲げたくない」金銭苦のなかで断り続けた“意外な仕事” 
NEWSポストセブン