国内

反対の声出る沿岸被災者の「高台移転」 解決にはカネの力必要

 3.11後の日本に必要とされるのは、復旧・復興力であり、もう一つは、それに裏打ちされた発想・構想力である。それらを兼ね備えた政治家といえば田中角栄にとどめを刺すだろう。彼が進めたであろう「被災地復興の具体策」と「次世代日本のグランドデザイン」を、『田中角栄 その巨善と巨悪』(日本経済新聞社刊)の著書がある水木楊氏が描いた。

 * * *
 もし角栄ならば、岩手・宮城・福島など大きな被害を受けた地域へ、すぐにヘリコプターで飛んだだろう。ちなみに、彼が主導した関越トンネルの建設の際は、角栄自らヘリで飛び、「ここに通せ」と指示をしている。

 そして、ヘリで被災地に降り立ち、長靴姿で手ぬぐいを片手に「よう、よう」などと言いながら地元住民たちの要望を聞いた上で、角栄は、「この高台に新しい街を作る」「この津波浸水地域は、すべて国が買い上げる」など、具体的に復興計画を立てるのではないか。今のような時こそ、彼の土木技師としての知識と技術がいかんなく発揮されたはずだ。

「国による土地買い上げ」や「高台移住」については、郷里に愛着のある被災者から反対の声も少なくない。だが、全員が満足する答えなど、最初からない。

 こういう場合、角栄ならきっと、「将来の日本のためだ」と言って、補償金を提示するだろう。それも、被災者たちが想像しているよりもひと桁多い金額を出すのだ。

 例えば500万円だと思われているところ、3000万円を提示されれば、多くの被災者たちは納得して移住するだろう。カネの力にモノを言わせるということではあるが、結果的に、そちらのほうが早く復興が進み、小出しに支援を進めていくよりも、トータルでは安くあがる可能性もある。

 必要なところにはカネを惜しまず、インフラを整えて経済的な基盤を作るのは、角栄の得意とするところだ。

 昭和23年頃、角栄が新潟三区から初当選を果たした直後のエピソードである。小千谷市の住民が信濃川の堤防改修を陳情した時のこと。角栄はすぐに建設省の河川局長のもとに足を運び、

「おい、局長。堤防造ってくれや」

 と大声を上げた。びっくりした局長は、「その地域は計画に入っておりません」と答えたが、角栄はこう反論した。

「だめなのをでかす(実現する)のが政治ではないか」

 こうして、堤防改修は実現した。

 また、山古志村の村道を県道、そして国道に昇格させたという逸話も、象徴的だ。

 山古志村の中でも、さらに山奥にある小松倉の人々は、冬場、雪に閉ざされる中山峠に苦しんでいた。病人を背負って峠越えをしている途中、病人が息を引き取ることもあった。そこで、村の人々は自分たちでトンネルを掘り、昭和24年にやっと開通させた。だが、人力で掘ったトンネルは狭く、足元も悪かった。

 そこで、住民たちは角栄に陳情したのだが、角栄はトンネルが走っている村道を国道へと昇格させ、国家予算で広く頑丈なトンネルを建設したのだ。

 その結果、角栄はこれらの地域に磐石の地盤を築くことになる。今から考えれば、「地方議員の典型的な利益誘導」だが、それがすべて悪だったとは言えないだろう。もし角栄が強引なまでの行動力で実現しなければ、それらの地域はその後も陸の孤島であり続けていたはずだ。角栄が動いて、道路や橋など様々なインフラが整ったからこそ、地域の経済基盤ができたと考えることもできる。

 今、“あれはできない”“これは無理だ”ばかりで復興がなかなか前に進まない被災地の現状を見れば、きっと角栄は「だめなのをでかすのが政治だ」と叫ぶに違いない。(談)

※SAPIO2011年9月14日号

関連キーワード

関連記事

トピックス

遠野なぎこ(本人のインスタグラムより)
《ブログが主な収入源…》女優・遠野なぎこ、レギュラー番組“全滅”で悩んでいた「金銭苦」、1週間前に公表した「診断結果」「薬の処方」
NEWSポストセブン
由莉は愛子さまの自然体の笑顔を引き出していた(2021年11月、東京・千代田区/宮内庁提供)
愛子さま、愛犬「由莉」との別れ 7才から連れ添った“妹のような存在は登校困難時の良きサポート役、セラピー犬として小児病棟でも活動
女性セブン
インフルエンサーのアニー・ナイト(Instagramより)
海外の20代女性インフルエンサー「6時間で583人の男性と関係を持つ」企画で8600万円ゲット…ついに夢のマイホームを購入
NEWSポストセブン
ホストクラブや風俗店、飲食店のネオン看板がひしめく新宿歌舞伎町(イメージ、時事通信フォト)
《「歌舞伎町弁護士」のもとにやって来た相談者は「女風」のセラピスト》3か月でホストを諦めた男性に声を掛けた「紫色の靴を履いた男」
NEWSポストセブン
遠野なぎこ(本人のインスタグラムより)
《自宅から遺体見つかる》遠野なぎこ、近隣住民が明かす「部屋からなんとも言えない臭いが…」ヘルパーの訪問がきっかけで発見
NEWSポストセブン
2014年に結婚した2人(左・時事通信フォト)
《仲間由紀恵「妊活中の不倫報道」乗り越えた8年》双子の母となった妻の手料理に夫・田中哲司は“幸せ太り”、「子どもたちがうるさくてすみません」の家族旅行
NEWSポストセブン
詐称疑惑の渦中にある静岡県伊東市の田久保眞紀市長(左/Xより)
《大学時代は自由奔放》学歴詐称疑惑の田久保市長、地元住民が語る素顔「裏表がなくて、ひょうきんな方」「お母さんは『自由気ままな放蕩娘』と…」
NEWSポストセブン
大谷翔平(時事通信)と妊娠中の真美子さん(大谷のInstagramより)
《大谷翔平バースデー》真美子さんの“第一子につきっきり”生活を勇気づけている「強力な味方」、夫妻が迎える「家族の特別な儀式」
NEWSポストセブン
詐称疑惑の渦中にある静岡県伊東市の田久保眞紀市長(HP/Xより)
田久保眞紀市長の学歴詐称疑惑 伊東市民から出る怒りと呆れ「高卒だっていい、嘘つかなきゃいいんだよ」「これ以上地元が笑いものにされるのは勘弁」
NEWSポストセブン
東京・新宿のネオン街
《「歌舞伎町弁護士」が見た性風俗店「本番トラブル」の実態》デリヘル嬢はマネジャーに電話をかけ、「むりやり本番をさせられた」と喚めき散らした
NEWSポストセブン
盟友である鈴木容疑者(左・時事通信)への想いを語ったマツコ
《オンカジ賭博で逮捕のフジ・鈴木容疑者》「善貴は本当の大バカ者よ」マツコ・デラックスが語った“盟友への想い”「借金返済できたと思ってた…」
NEWSポストセブン
米田
《チューハイ2本を万引きで逮捕された球界“レジェンド”が独占告白》「スリルがあったね」「棚に返せなかった…」米田哲也氏が明かした当日の心境
週刊ポスト