国内

東北の観光地 あまり被災していない青森や山形でも観光客減

 ベストセラー『がんばらない』著者の鎌田實氏は、長野県の諏訪中央病院の名誉院長でもある。チェルノブイリや震災のボランティアに取り組んできた氏が、今回は東北地方に障害のある人たちと旅に出た。以下は鎌田氏による報告である。

 * * *
 車椅子のおじさんが身を乗り出している。嬉しそうだ。がんを患っているおばさんは、ハワイアンの音楽に合わせて気持ちよさそうに身体を揺らしている――。

 これまで7年間、僕は年に2回、ボランティアで、障害のある人たちと旅をしてきた。春は外国、秋は温泉。今回は、東北を助けたいと思い、『鎌田實と東北へ行こう』という2泊3日のバスツアーを実施した。その最後の夜、宿泊先の宮城県松島のホテルに、福島県いわき市のスパリゾートハワイアンズのフラガールたちが駆けつけてくれたのだ。

 今回のツアーは、東北を応援するツアーだから、東京への帰途、福島市の観光果樹園で昼食を摂り、ブドウ狩りをしてきた。福島の観光果樹園は、どこも人がやってこないため、前年の10%にも満たない状態だという。

 そこへ、ツアーのバスが5台乗り込んだとあって、果樹園の人々は「バスがこんなに停まったのは、久しぶりだ」と大喜び。ツアーに参加した人たちは、ブドウのおいしさに大喜びだった。このブドウはもちろん、福島県の検査が行なわれ、安全の証明も出ている。さらにもう1回、食物放射線量の検査をして「不検出」の確認もとっている。

 いま東北6県の観光業は、非常に厳しい状況に置かれている。東北観光推進機構の調べによると、主な観光地の入込数は軒並みダウン。宮城県の名刹、瑞巌寺の4月の集計は前年比8%。ゴールデンウィークの5月も28%というありさまだった。

 福島の会津武家屋敷では、4月は12%に落ち込み、5月は33%の上向きになったが、7月でも36%。前年比192%と大幅に増えたのは、世界遺産に登録された中尊寺だけだった。

 あまり被災していない青森の小牧温泉へ9月に行ったが、超有名な旅館も惨憺たる状況で、お客さんが来ていなかった。少しでも集客につなげようと、毎晩、職員たちの手による、ねぶた祭りが行なわれていたが、非常に厳しいという。山形県の天童温泉もまた、閑古鳥が鳴いていた。

 ましてや津波の大被害を受けた宮城県の沿岸部では、客が激減した。松島で泊まった大観荘も例外ではなく、「一時期は職員の解雇も考えました」と女将。復興支援に来てくれた警察やボランティアの人たちが泊まってくれたのが、利益にはならないが、ありがたかった。なんとか解雇しないですんだという。

 松島湾の観光船の船長とも話したが、2~3人のお客を乗せただけの“松島めぐり”がずっと続いた。高騰した燃料を捨てているような状態で、泣きたいくらい悲しく、毎日うつうつとしていたという。

 僕が見てきた限り、東北の傷は今も深い。そしてこれからも長い闘いになるだろう。日本中だけでなく、世界各国からも何千億円もの義捐金が寄せられたのに、それが被災者のところに届いていないという現実が未だにある。

 義捐金が届かないなら、こちらから東北に向かおうではないか。紅葉を見ながら温泉に浸かって復興支援。秋の行楽シーズンは、みんなで東北へ行こう。

※週刊ポスト2011年10月28日号

関連キーワード

関連記事

トピックス

初公判は9月9日に大阪地裁で開かれた
「全裸で浴槽の中にしゃがみ…」「拒否ったら鼻の骨を折ります」コスプレイヤー・佐藤沙希被告の被害男性が明かした“エグい暴行”「警察が『今しかないよ』と言ってくれて…」
NEWSポストセブン
指名手配中の八田與一容疑者(提供:大分県警)
《ひき逃げ手配犯・八田與一の母を直撃》「警察にはもう話したので…」“アクセルベタ踏み”で2人死傷から3年半、“女手ひとつで一生懸命育てた実母”が記者に語ったこと
NEWSポストセブン
初公判では、証拠取調べにおいて、弁護人はその大半の証拠の取調べに対し不同意としている
《交際相手の乳首と左薬指を切断》「切っても再生するから」「生活保護受けろ」コスプレイヤー・佐藤沙希被告の被害男性が語った“おぞましいほどの恐怖支配”と交際の実態
NEWSポストセブン
芸能活動を再開することがわかった新井浩文(時事通信フォト)
「ウチも性格上ぱぁ~っと言いたいタイプ」俳優・新井浩文が激ヤセ乗り越えて“1日限定”の舞台復帰を選んだ背景
NEWSポストセブン
国分太一の素顔を知る『ガチンコ!』で共演の武道家・大和龍門氏が激白(左/時事通信フォト)
「あなたは日テレに捨てられたんだよっ!」国分太一の素顔を知る『ガチンコ!』で共演の武道家・大和龍門氏が激白「今の状態で戻っても…」「スパッと見切りを」
NEWSポストセブン
2009年8月6日に世田谷区の自宅で亡くなった大原麗子
《私は絶対にやらない》大原麗子さんが孤独な最期を迎えたベッドルーム「女優だから信念を曲げたくない」金銭苦のなかで断り続けた“意外な仕事” 
NEWSポストセブン
ドラフト1位の大谷に次いでドラフト2位で入団した森本龍弥さん(時事通信)
「二次会には絶対来なかった」大谷翔平に次ぐドラフト2位だった森本龍弥さんが明かす野球人生と“大谷の素顔”…「グラウンドに誰もいなくなってから1人で黙々と練習」
NEWSポストセブン
小説「ロリータ」からの引用か(Aでメイン、民主党資料より)
《女性たちの胸元、足、腰に書き込まれた文字の不気味…》10代少女らが被害を受けた闇深い人身売買事件で写真公開 米・心理学者が分析する“嫌悪される理由”とは
NEWSポストセブン
ラオスを訪問された愛子さま(写真/共同通信社)
《「水光肌メイク」に絶賛の声》愛子さま「内側から発光しているようなツヤ感」の美肌の秘密 美容関係者は「清潔感・品格・フレッシュさの三拍子がそろった理想の皇族メイク」と分析
NEWSポストセブン
国宝級イケメンとして女性ファンが多い八木(本人のInstagramより)
「国宝級イケメン」FANTASTICS・八木勇征(28)が“韓国系カリスマギャル”と破局していた 原因となった“価値感の違い”
NEWSポストセブン
今回公開された資料には若い女性と見られる人物がクリントン氏の肩に手を回している写真などが含まれていた
「君は年を取りすぎている」「マッサージの仕事名目で…」当時16歳の性的虐待の被害者女性が訴え “エプスタインファイル”公開で見える人身売買事件のリアル
NEWSポストセブン
タレントでプロレスラーの上原わかな
「この体型ってプロレス的にはプラスなのかな?」ウエスト58センチ、太もも59センチの上原わかながムチムチボディを肯定できるようになった理由【2023年リングデビュー】
NEWSポストセブン