国際情報

サヤ取り業者に国もレバレッジをかけて対抗せよと大前研一氏

ドイツよ、お前もか。収束しかけたかに見えた欧州危機の火種は再び燻り始めている。EU各国は金融安定化のために100兆円を超える融資能力を確保するとしているが、イタリア、スペイン、さらにフランスの国債利回りまで上昇し始め、ドイツ国債は「札割れ」になった。こうした危機の連鎖は、一過性のものではなく、共通通貨ユーロ、そしてEUという枠組みが孕む根本的な欠陥に起因していると大前研一氏は指摘する。

* * *
今、欧州に必要なのが、サヤ取り業者(アービトラージャー)対策だ。これは私がリーマン・ショックの時から指摘している問題だが、サヤ取り業者は、レバレッジをかけた「空売り」が常套手段である。

自己資金が1000億円とすれば、それを担保に銀行から3000億円借りて4000億円に増やし、さらに10倍のレバレッジをかけて(つまり自己資金を40倍に膨らませて)4兆円の空売りを仕掛けてくるのだ。これはレバレッジをかけられない国(中央銀行)の側から見ると、非常に厄介だ。

したがって、このハイエナのようなサヤ取り業者を規制する方法を確立しなければならないわけだが、レバレッジをかけた空売りは犯罪ではなく技術の1つなので、逮捕したり禁止したりすることはできない。では、どうするか? サヤ取り業者に融資した金融機関は、自分自身が危機に陥ってもEFSFなどの安全網は救済しない、というルールを作ればよいのである。

なぜなら、サヤ取り業者に融資している金融機関はマッチポンプをやっているからだ。つまり、サヤ取り業者の暗躍で生じた市場の混乱に乗じて儲けているのである。にもかかわらず、自分も混乱してひっくり返り、安全網に駆け込んで生き延びている。大手金融機関だから最初に救済されるのだ。リーマン・ショックの時のゴールドマン・サックスしかり、モルガン・スタンレーしかりである。今回の場合も同様に、BNPパリバやHSBCなど欧米の大手金融機関が債務危機の裏で蠢いていると推察される。

しかし、G8かG20で「サヤ取り業者に融資した金融機関は救済しない」と決めれば、少なくともサヤ取り業者は金融機関から融資を受けられなくなって、元手が4分の1(自己資金のまま)になる。レバレッジをかけても10倍がせいぜいだ。そうなれば国側の防衛はうんと楽になる。だから、このルールを一刻も早く作るべきだと思うのだが、残念ながら未だにG8でもG20でもEU首脳会議でも、この問題を話し合った形跡はない。

さらに、サヤ取り業者対策「その2」として、国のほうもディフェンスする時にレバレッジをかけるべきだと思う。サヤ取り業者がレバレッジを何十倍もかけて空売りしてくるのに、中央銀行は為替市場でレバレッジをかけずに対抗している。

これは鉄砲に刀で立ち向かうようなものであり、フェアな戦いではない。だからタイの中央銀行はヘッジファンドを率いる一投資家にすぎないジュリアン・ロバートソン1人に、イギリスのイングランド銀行はジョージ・ソロス1人に倒されてしまったのである。

したがって、国の側も元サヤ取り業者を何人か雇い、資金にレバレッジをかけて戦えばよいと思うのだ。「飛び道具には飛び道具を」「サヤ取り業者にはサヤ取り業者を」である。そうすれば、サヤ取り業者が1000億円を4兆円にして売り浴びせてきても、中央銀行は5000億円を5兆円、1兆円を10兆円にして逆張りすることができるから、絶対に負けない。国を相手にサヤ取り業者が暗躍することはなくなるだろう。

※SAPIO2011年12月28日号

関連記事

トピックス

靖国神社の春と秋の例大祭、8月15日の終戦の日にはほぼ欠かさず参拝してきた高市早苗・首相(時事通信フォト)
高市早苗・首相「靖国神社電撃参拝プラン」が浮上、“Xデー”は安倍元首相が12年前の在任中に参拝した12月26日か 外交的にも政治日程上も制約が少なくなるタイミング
週刊ポスト
三重県を訪問された天皇皇后両陛下(2025年11月8日、撮影/JMPA)
《季節感あふれるアレンジ術》雅子さまの“秋の装い”、トレンドと歴史が組み合わさったブラウンコーデがすごい理由「スカーフ1枚で見違えるスタイル」【専門家が解説】
NEWSポストセブン
俳優の仲代達矢さん
【追悼】仲代達矢さんが明かしていた“最大のライバル”の存在 「人の10倍努力」して演劇に人生を捧げた名優の肉声
週刊ポスト
10月16日午前、40代の女性歌手が何者かに襲われた。”黒づくめ”の格好をした犯人は現在も逃走を続けている
《ポスターに謎の“バツ印”》「『キャー』と悲鳴が…」「現場にドバッと血のあと」ライブハウス開店待ちの女性シンガーを “黒づくめの男”が襲撃 状況証拠が示唆する犯行の計画性
NEWSポストセブン
全国でクマによる被害が相次いでいる(右の写真はサンプルです)
「熊に喰い尽くされ、骨がむき出しに」「大声をあげても襲ってくる」ベテラン猟師をも襲うクマの“驚くべき高知能”《昭和・平成“人食い熊”事件から学ぶクマ対策》
NEWSポストセブン
オールスターゲーム前のレッドカーペットに大谷翔平とともに登場。夫・翔平の横で際立つ特注ドレス(2025年7月15日)。写真=AP/アフロ
大谷真美子さん、米国生活2年目で洗練されたファッションセンス 眉毛サロン通いも? 高級ブランドの特注ドレスからファストファッションのジャケットまで着こなし【スタイリストが分析】
週刊ポスト
公金還流疑惑がさらに発覚(藤田文武・日本維新の会共同代表/時事通信フォト)
《新たな公金還流疑惑》「維新の会」大阪市議のデザイン会社に藤田文武・共同代表ら議員が総額984万円発注 藤田氏側は「適法だが今後は発注しない」と回答
週刊ポスト
“反日暴言ネット投稿”で注目を集める中国駐大阪総領事
「汚い首は斬ってやる」発言の中国総領事のSNS暴言癖 かつては民主化運動にも参加したリベラル派が40代でタカ派の戦狼外交官に転向 “柔軟な外交官”の評判も
週刊ポスト
超音波スカルプケアデバイスの「ソノリプロ」。強気の「90日間返金保証」の秘密とは──
超音波スカルプケアデバイス「ソノリプロ」開発者が明かす強気の「90日間全額返金保証」をつけられる理由とは《頭皮の気になる部分をケア》
NEWSポストセブン
三田寛子(時事通信フォト)
「あの嫁は何なんだ」「坊っちゃんが可哀想」三田寛子が過ごした苦労続きの新婚時代…新妻・能條愛未を“全力サポート”する理由
NEWSポストセブン
大相撲九州場所
九州場所「17年連続15日皆勤」の溜席の博多美人はなぜ通い続けられるのか 身支度は大変だが「江戸時代にタイムトリップしているような気持ちになれる」と語る
NEWSポストセブン
初代優勝者がつくったカクテル『鳳鳴(ほうめい)』。SUNTORY WORLD WHISKY「碧Ao」(右)をベースに日本の春を象徴する桜を使用したリキュール「KANADE〈奏〉桜」などが使われている
《“バーテンダーNo.1”が決まる》『サントリー ザ・バーテンダーアワード2025』に込められた未来へ続く「洋酒文化伝承」にかける思い
NEWSポストセブン