国内

新聞の「一部報道によれば」≒「週刊誌が報じたネタだが…」

新聞が使う独特の言い回しに「〇〇日、分かった」という用語がある。普通の文章では、まずないと思うが、これをいったいどう読んだらいいのか。その表現について東京新聞・中日新聞論説副主幹の長谷川幸洋氏が具体例を挙げて解説する。

* * *
「沖縄防衛局の田中聡局長(50)が28日夜、報道機関との非公式の懇談会で、米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)の移設先の環境影響評価(アセスメント)の評価書の提出時期を一川保夫防衛相が明言していないことについて『犯す前に犯しますよと言いますか』と発言していたことが分かった」(毎日新聞11月29日付夕刊)

ここでは毎日新聞を挙げたが、たとえば朝日新聞や東京新聞も同様だ。「分かった」という言い方には不思議なニュアンスがある。まず、だれが「分かった」のか。記事は主語を示していないが、ほとんどの場合、記事を書いた記者本人あるいは新聞が「分かった」のである。上の例では毎日や朝日や東京だ。

どうして「分かった」のかといえば、よその社が報じたからだ。局長の失言は沖縄の地元紙である琉球新報が最初に報じた。発言は複数の記者たちとのオフレコ懇談で飛び出したが、琉球新報だけが報じて、他紙は報じなかった。そこで、他紙が後追いする手法として「分かった」が使われた。

読者にしてみれば「読む側は初めて知ったのだから、どうしてこういう事実が明らかになったのか、経緯を知りたい」と思うのは当然だろう。ひと昔前まで「他紙が書いた特ダネの後追いはみっともない」という意識もあって、第一報を報じた他社の名前はまず出さなかった。

このケースでは三紙ともきちんと「琉球新報が29日付朝刊で報じた」と伝えている。どうやら「他紙の後塵を拝したくない」という見栄は影を潜め、きちんと事実を報じるようになってきたかに見える。この傾向が定着するなら、読者にとって結構なことだ。

ところが相手が雑誌となると、それほど寛容でもない。たとえばオリンパス事件を最初に報じたのは会員制月刊誌の『FACTA』である。社長が欧米紙に情報を提供し、フィナンシャル・タイムズなどが連日のように報じ始めて、日本でも火がついた。欧米メディアはきちんと『FACTA』の名前を出したが、日本のメディアはまったく出さないか、及び腰だった。そのあたりをフィナンシャル・タイムズはこう皮肉っている。

「オリンパスの問題は日本のメディアに焦点を当てた。大手新聞は(中略)粘り強く醜聞を暴くFACTAの記者とちがって(中略)オリンパス事件を軽く扱ったと批判されている」(10月29/30日付)

『週刊ポスト』もこれまで数々の特ダネがあったと思うが、新聞はせいぜい「一部報道によれば」と書くくらいで「週刊ポストによれば」と明示した例はなかったのではないか。

徹底して読者本位で考えるなら、雑誌だって名前を出すべきだ。「雑誌報道は信用できない」という言い訳は通用しない。オリンパスは事件になったし、ほかの例でも見栄を捨てて後追いしているのだから、その他社のスクープが「報じるに値する」と認めている証拠である。

メディア同士が互いに相手の名前を出して報道を引用したり批判したりするのは、メディア全体の信用を高める効果がある。メディアが自分のプライドを脇に置いても、なにより公平さを重要視している証明になるからだ。それに第一、面白い。週刊誌に限ってもライバル誌の批判から一歩進んで、相手の報道を前向きに引用して、さらに突っ込めれば本物である。

※週刊ポスト2011年12月23日号

関連キーワード

関連記事

トピックス

ヴィクトリア皇太子と夫のダニエル王子を招かれた天皇皇后両陛下(2025年10月14日、時事通信フォト)
「同じシルバーのお召し物が素敵」皇后雅子さま、夕食会ファッションは“クール”で洗練されたセットアップコーデ
NEWSポストセブン
高校時代の青木被告(集合写真)
【長野立てこもり殺人事件判決】「絞首刑になるのは長く辛く苦しいので、そういう死に方は嫌だ」死刑を言い渡された犯人が逮捕前に語っていた極刑への思い
NEWSポストセブン
ラブホテルから出てくる小川晶・市長(左)とX氏
【前橋市・小川晶市長に問われる“市長の資質”】「高級外車のドアを既婚部下に開けさせ、後部座席に乗り込みラブホへ」証拠動画で浮かび上がった“釈明会見の矛盾”
週刊ポスト
米倉涼子を追い詰めたのはだれか(時事通信フォト)
《米倉涼子マトリガサ入れ報道の深層》ダンサー恋人だけではない「モラハラ疑惑」「覚醒剤で逮捕」「隠し子」…男性のトラブルに巻き込まれるパターンが多いその人生
週刊ポスト
問題は小川晶・市長に政治家としての資質が問われていること(時事通信フォト)
「ズバリ、彼女の魅力は顔だよ」前橋市・小川晶市長、“ラブホ通い”発覚後も熱烈支援者からは擁護の声、支援団体幹部「彼女を信じているよ」
週刊ポスト
新聞・テレビにとってなぜ「高市政権ができない」ほうが有り難いのか(時事通信フォト)
《自民党総裁選の予測も大外れ》解散風を煽り「自民苦戦」を書き立てる新聞・テレビから透けて見える“高市政権では政権中枢に食い込めない”メディアの事情
週刊ポスト
ソフトバンクの佐藤直樹(時事通信フォト)
【独自】ソフトバンクドラ1佐藤直樹が婚約者への顔面殴打で警察沙汰 女性は「殺されるかと思った」リーグ優勝に貢献した“鷹のスピードスター”が男女トラブル 双方被害届の泥沼
NEWSポストセブン
出廷した水原一平被告(共同通信フォト)
《水原一平を待ち続ける》最愛の妻・Aさんが“引っ越し”、夫婦で住んでいた「プール付きマンション」を解約…「一平さんしか家族がいない」明かされていた一途な思い
NEWSポストセブン
公務に臨まれるたびに、そのファッションが注目を集める秋篠宮家の次女・佳子さま(共同通信社)
「スタイリストはいないの?」秋篠宮家・佳子さまがお召しになった“クッキリ服”に賛否、世界各地のSNSやウェブサイトで反響広まる
NEWSポストセブン
司組長が到着した。傘をさすのは竹内照明・弘道会会長だ
「110年の山口組の歴史に汚点を残すのでは…」山口組・司忍組長、竹内照明若頭が狙う“総本部奪還作戦”【警察は「壊滅まで解除はない」と強硬姿勢】
NEWSポストセブン
「第72回日本伝統工芸展京都展」を視察された秋篠宮家の次女・佳子さま(2025年10月10日、撮影/JMPA)
《京都ではんなりファッション》佳子さま、シンプルなアイボリーのセットアップに華やかさをプラス 和柄のスカーフは室町時代から続く京都の老舗ブランド
NEWSポストセブン
「週刊ポスト」本日発売! 電撃解散なら「高市自民240議席の激勝」ほか
「週刊ポスト」本日発売! 電撃解散なら「高市自民240議席の激勝」ほか
NEWSポストセブン